いなくなった夫
数年前、夫が自殺した。
死ぬ2年程前から心臓の難病に侵され
仕事も辞め治療に専念していた。
だが、そのうち薬の副作用なのか、
ガンにも侵されている事が判明した。
夫は死ぬ事ばかりを考えるようになり、
何度も何度も自殺を図り、
その度に警察や救急車、そして
病院の世話になった。
警察の人にも
「奥さん、このままだと旦那さんは
何時か本当に死にますよ。
その事は覚悟しなければなりませんよ」
と言われた。
そのうち夫は心中を考えるようになり、
家に火をつけようとしたり、
包丁を研ぎ出したり、
暴力を振るうようになった。
私も恐怖で眠れない日が続いた。
家のローンもおもいっきり残っていて、
私の少ない稼ぎと貯金の切り崩しだけでは、
もう限界が来ていた。
双方の実家で話し合い、
夫は、夫の妹のアパートから
歩いて通える国立病院に入院し、
義母が面倒を看る事になった。
私は、仕事の都合と子供の面倒を頼める
自分の実家に引っ越し、
家は人に貸す事にした。
別居してしばらくして、義母から
「○○(夫の名)がいなくなった」
と連絡が来た。
ひょっとすると・・・、とは思ったが、
義母の気持ちを考えると、
「大丈夫ですよ。無断で友達の所へでも
行ったんじゃないですか?
そのうちケロッとした顔で帰ってきますよ」
としか言えなかった。
次の晩、子供がベッドの下に置いてた
アルミのボトルが、突然触ってもいないのに
ベコン、ベコンと音を立てた。
全身、鳥肌が立った。
ボトルは空で、何日も前から
そこに放置されていたものだった。
たぶん夫が死んだのだと思った。
子供も人影を見て、
怖くて声も出せなかった。
翌日、夫が死んでいるのが発見された。
それ以来、子供が言う。
「お母さんのベッドの足元に親父がいるよ」
そう、やたらとラップ音が
そのあたりからするんです。
(終)