彼女の左耳の聴力が無かった原因
昔に付き合っていた彼女の話。
性格や外見は至って普通の子で、
特に変わったことはなかったが、
左耳の聴力がほとんど無かった。
原因は子供の頃にあり、
ヤブ医者の中途半端な治療で、
中耳炎がきちんと治らなかったらしい。
しかし俺は、
ある夜に見てしまった。
夜中にトイレに起きて、
彼女の隣に戻って寝ようとしたら、
彼女の左耳を塞ぐ『半透明の手』を・・・
その日を境に、
彼女の顔をきちんと見て
話せなくなったし、
二人で歩く時には、
彼女の右側を努めて歩くようになった。
もし左側にいると、
半透明の手が耳を塞いでいるのが
見えたりするからだ。
右耳しかうまく聞こえない彼女は、
気を遣って右に立ってくれている・・・
としか思ってないようだったが。
酷い考え方だが、
俺には何も問題は無かったので、
あの時までは普通に付き合っていた。
ある日に彼女が「肩こりが酷い」と、
愚痴を言ってきた。
その時点で嫌な感じはしたが、
慣れていたので普通に接してスルーした。
その日の帰り際、
家路につく彼女の後ろ姿を見て、
さすがに驚いた。
俺はそれまで、
左耳を塞ぐ手が肩を痛めつけている、
と思っていた。
ところが左耳の半透明の手は、
そのまま耳を塞いでいる。
右肩の辺りには、
後頭部だけのモノがいた。
俺は、思わず声をかけた。
振り返った彼女の右肩には、
凄い形相をした女が
噛み付いているのが見えた。
それ以降、
彼女が身体の不調を訴える度に
半透明の何かが見え、
手や足、顔などが7箇所ほどから
見えるようになった。
見るに耐えられなくなった俺は、
さすがに別れることにした。
その頃には複数の手足や顔に、
彼女は纏わり憑かれていた。
別れて会わないまま二年以上経つが、
あれは一体なんだったんだろうか・・・
(終)