魚男

魚

 

ああ、夏が終わる前に、

すべての話を書いてしまいたい。

 

もう書かないと言った気がするが、

そうして終わりたい。

 

俺、色々ヤバイことしたし、

ヤバイ所にも行ったんだけど、

 

幸い、とり憑かれる

なんてことはなかった。

 

一度だけ除けば。

 

大学1年の秋ごろ、

サークルの仲間とこっくりさんをやった。

 

俺の下宿で。

 

それも本格的なやつ。

 

俺にはサークルの先輩で

オカルト道の師匠がいたのだが、

 

彼が知っていたやり方で、

半紙に墨であいうえおを書くんだけど、

 

その墨に参加者のツバを混ぜる。

 

あと、鳥居のそばに置く酒も、

2日前から縄を張って清めたやつ。

 

いつもは軽い気持ちでやるんだけど、

師匠が入るだけで雰囲気が違って、

 

みんな神妙になっていた。

 

始めて10分くらいして、

 

なんの前触れもなく部屋の壁から

白い服の男が出てきた。

 

青白い顔をして無表情なんだけど、

説明しにくいが『魚』のような顔だった。

 

俺は固まったが、

他の連中は気付いていない。

 

「こっくりさん、こっくりさん、」

 

と続けていると、

男はこっちをじっと見ていたが、

 

やがてまた壁に消えていった。

 

消える前にメガネをずらして見てみたが、

輪郭はぼやけなかった。

 

なんでそうなるのか知らないが、

 

この世のものでないものは、

裸眼やコンタクトの関係ない見え方をする。

 

内心ドキドキしながらも

こっくりさんは無事終了し、

 

解散になった。

 

帰る間際、師匠に、

 

「あれ、なんですか」

 

と聞いた。

 

俺に見えて師匠が見えてない

なんてことはなかったから。

 

しかし、

 

「わからん」

 

の一言だった。

 

その次の日から、

奇妙なことが俺の部屋で起こり始めた。

 

ラップ音くらいなら耐えられたんだけど、

 

怖いのは、夜ゲームとかしていて

何の気もなく振り返ると、

 

ベットの毛布が人の形に盛りあがって

いることが何度もあった。

 

それを見てビクッとすると、

すぐにすぅっと毛布は元に戻る。

 

ほかには耳鳴りがして窓の外を見ると、

大体あの魚男がスっと通るところだったりした。

 

見えるだけならまだいいが、

 

毛布が実際に動いているのは

精神的にきつかった。

 

もうゲッソリして、

師匠に泣きついた。

 

しかし師匠が言うには、

あれは人の霊じゃないと。

 

人の霊なら何がしたいのか、

何を思っているのか大体わかるが、

 

あれはわからない。

 

単純な動物霊とも違う。

 

一体なんなのか、

正体というと変な感じだが、

 

とにかくまったく何もわからないそうだ。

 

時々そういうものがいるそうだが、

絶対に近寄りたくないという。

 

頼りにしている師匠がそう言うのである。

 

こっちは生きた心地がしなかった。

 

こっくりさんで呼んでしまったとしか

考えられないから、

 

またやればなんとかなるかと思ったけど、

 

「それはやめとけ」

 

と師匠。

 

結局、

半月ほど悩まされた。

 

時々見える魚男は

うらめしい感じでもなく、

 

しいて言えば、

興味本意のような悪意を感じたが、

 

それもどうだかわからない。

 

人型の毛布もきつかったが、

 

夜締めたドアの鍵が朝になると

開いているのも勘弁して欲しかった。

 

夜中ふと目が覚めると、

 

暗闇の中でドアノブを握っていた

ことがあった。

 

自分で開けていたらしい。

 

これはもうノイローゼだと思って、

部屋を引っ越そうと考えてた時、

 

師匠がふらっとやってきた。

 

3日ほど泊めろと言う。

 

その間なぜか一度も魚男は出ず、

怪現象もなかった。

 

帰る時、

 

「たぶんもう出ない」

 

と言われた。

 

そしてやたらと溜息をつく。

 

体が重そうだった。

 

何がどうなってるんですかと聞くと、

しぶしぶ教えてくれた。

 

「○○山の隠れ道祖神っての、あるだろ」

 

結構有名な心霊スポットだった。

 

かなりヤバイところらしい。

 

頷くと、

 

「あれ、ぶっ壊してきた」

 

絶句した。

 

もっとヤバイのが憑いてる人が来たから、

魚男は消えたらしい。

 

半分やけくそ気味で、

ついでに俺の問題を解決してくれたという。

 

なんでそんなもの壊したのかは

教えてくれなかった。

 

師匠は、

 

「まあこっちはなんとかする」

 

と言って、

力なく笑った。

 

(終)

次の話・・・「水の音

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