「出る」と有名だった病棟の個室にて
これは、病院にまつわる怖い話。
私は病院で看護助手の仕事をしています。
病棟には個室が2つしかなく、その一つの個室は前々から『出る』と有名でした。
私は見ていませんが、掃除に入っても扉は閉めたくないなと思うくらい、嫌な雰囲気は感じていました。
ある日、その個室にお坊さんが腰椎圧迫骨折で入院しました。
歳は高齢というわけでもないので、認知症等はなく、しっかりと受け答えされていました。
たった数日で別人のように
入院して3~4日経った日の夜中、入院時は寝返りを打つのもやっとな感じで痛そうにしていたのですが、その患者さんが部屋の前に立っていたそうです。
看護師の佐伯さんが驚き「どうしたの?」と聞くと、「今部屋に誰か来たから、誰が来たか見に来た」と答えたそうです。※名前は仮名
佐伯さんが「誰も居ないよ。腰痛くない?とりあえずベッドに戻ろうか」と促すと、大人しくベッドに戻ってくれました。
しかしその後、座ったり、車椅子に乗ったり、オムツを外したりと、絶対安静なのに大人しくしてくれません。
佐伯さんが質問しても、「車は迎えに来ましたか?」、「あそこに行けば大丈夫ですよ」と、全く会話にならないのです。
朝になりやっと眠ったそうで、日勤者が来た時はベッドで眠っていました。
申し送りでそれを聞きた私は驚きましたが、その姿を見ていないので一時的におかしくなったのかな?と思っていました。
その日の昼前、その患者さんが叫んでいる声が聞こえたので、その時に一緒にいた松田さんと見に行くと、ベッド柵を外し、座って何かを叫んでいました。※名前は仮名
私が「どうしたの?」と聞くと、患者さんは壁を指差し、「そこに墓があるやろ?そこの墓に線香あげてあげやなあかん」と言います。
私は「そこは壁だよ。お墓はないよ。ベッドで横になろう?」と肩に手をかけ促すと、「お父さんの言うことが聞けないのか!」と怒鳴られ、手を叩かれました。
ちなみに、この患者さんは独身で、子供はいません。
仕方なく、松田さんが後ろから体を引っ張り、私が足を持ってベッドに寝かせ、部屋持ちの看護師さんに報告をしましたが、患者さんの家族(母親)から抑制許可をもらっていないので母親が来ないとどうしようもない、との事でした。
なので、起き上がる度にベッドに戻していました。
翌日の朝、出勤すると患者さんは手を抑制されていたので、抑制許可がもらえたんだと安心しましたが、昼過ぎに様子を見ると上手に抑制帯を外し、ベッドで正座をしてお経を唱えていました。(パートのおばちゃんが浄土真宗だろうと言っていました)
これまでも抑制帯を上手に外す人は何人も見てきたので、この人もそういうのが得意な人なんだと思い、横にしてまた抑制しました。
しかし、何度抑制しても帯を外してベッドで正座をしてお経を唱えたり、何かを叫んだりと、入院して来た時とは全く別人になっていました。
顔つきも変わってしまい、来た時は優しい顔をしていましたが、たった数日で目は吊り上がり、口は常に開いているようになりました。
そして、脳に何かしらの異常があるかもしれないとなり、医師の指示でCTとMRIを撮りました。
結果、脳には何の異常もありませんでしたが当病院では診れないとの判断で、転院先を探して15件にお願いしたものの、全て受け入れを拒否されました。
その後も受け入れ先を探しましたが、どこも受け入れてもらえませんでした。
その患者さんは叫ぶ事もなくなり、目は虚ろで口は常に開いても喋りはしなく、朝昼は口にご飯を入れても飲み込みもしないようになってしまいました。
ただ、晩ご飯はご飯を見るとがっついているそうで・・・。
たった数日でこんなに変わってしまった人は初めて見たのと、調べても異常がないのにこうなってしまった事に少し怖くなりました。
もしかすると、部屋に来た『何か』が憑いてしまったのでしょうか。
それを祓うためにお経を読んでいたのなら、私は邪魔した事になるのでしょうか。
これは、現在進行形の話です。
昨日の夜勤では、患者さんはひたすらどこか遠いところを見ていて目が合わず、質問をしても何も話さないし、抜け殻のような感じでした。
また、痰も自分で出せなくなり、吸引するようになってしまいました。
(終)