深夜の病院で見たものは

ある学生が怪我をして病院に入院した。

 

怪我自体は軽く、1週間もすれば

退院できるとのことだった。

 

しかしその病院は「出る」と、

評判の病院であった。

 

ところが霊を信じない彼は、

友人にそのことを聞いても

全く気にしていなかった。

 

ある日の深夜、トイレに行きたくなり

目が覚めた彼は、

ヨタヨタとトイレへ向かった。

 

深夜の病院は不気味な雰囲気

ではあったが、

彼はよろけつつもトイレの前に来た。

 

カチャカチャ・・・カチャカチャ・・・

 

その時、廊下の奥の方から

金属が触れ合うような音が聞こえた。

 

「なんだ?手術の用具でも

トレイに乗せているのか?

だがこの階は病室しかないぞ・・・」

 

そして、音がだんだんと近づいてきた。

 

それは彼の予想通りに

手術用具を乗せたトレイを押している

看護婦であったが、

血だらけの白衣と禍々しい空気から、

彼女が人間でないことは明らかだった。

 

彼は仰天した。

 

早く逃げないと

看護婦に見つかってしまう!

 

しかし今の彼は怪我をしているので、

早くは動くことは出来ない。

 

そこで、目の前のトイレに駆け込み、

個室の鍵を掛け、隠れることにした。

 

カチャカチャ・・・

 

カチャカチャカチャ・・・

 

キィーキィー・・・

 

トレイを押す音が大きくなってくる。

 

彼は必死に息を殺し、

通り過ぎるのを待った。

 

そしてしばらくすると、

彼の思いが通じたのか、

トレイの音は聞こえなくなっていた。

 

「よかった。助かった・・・」

 

安堵した彼が病室に戻ろうと顔を上げると、

血だらけの看護婦と目が合った。

 

看護婦は彼の存在に気付いていたのだ。

 

そして、トイレの扉に手を掛け、

彼を見下ろしていたのだ。

 

(終)

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