研修センターの閉ざされたドア 1/2

開かずの扉

 

今から10年ほど前、私が大学生だった頃の話です。

 

私が通っていたのはかなり田舎の大学で、学生たちも地味な人が多かった。

 

そんな地味な学生たちでも4年生になる頃には卒業の為の単位も揃い、それまでのバイトで貯めた金で海外へ卒業旅行に出掛けたりする。

 

だが、私はかなり怠けた生活を送ったツケで4年になっても単位が足りず、またバイト代もほとんど使い切ってしまっていた為、卒業旅行どころではなかった。

 

しかし、似たようなヤツはいるもので・・・。

 

結局いつもつるんでいた4人で、その内の一人の親父さんが勤める会社の研修センター(保養所)にタダで泊めてもらえることになった。

 

大した施設ではないのだが、最近では会社で利用する機会も少ないそうで、掃除と布団干しを条件に何泊でも好きに使って良いとのことだった。

 

私たち貧乏学生4人はとりあえず1週間程の滞在をすることにし、1台の車に乗り込んでその研修センターに向かった。

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ドアの向こうから聞こえた音の正体とは

地図を頼りに約2時間30分ほど山間を走った所にその研修センターはあった。

 

確かにここ最近は利用されておらず、また管理人も特に駐在していないので、パッと見た感じでは廃屋の様であった。

 

また中に入ればカビ臭さが漂っており、本当にこんな所で寝泊りするのかとゾッとしたが、掃除をすれば何とかなるレベルでもあった。

 

まずは状況確認も含め、親父さんから預かった鍵の束を使って一部屋ずつ皆で建物内を散策していった。

 

建物内の間取りは至ってこじんまりとしており、親父さんの説明通り、宿泊用の4人部屋が1階に2部屋、2階に4部屋、共同風呂が1つ、トイレが1つ。

 

それに、食堂やキッチンといった造りであった。

 

しかし、1箇所だけ開くことの出来ないドアがある。

 

それは2階の廊下の突き当たりにあったのだが、特に変わった様子(封印してあるとか)ではない。

 

ただ、鍵の束のどの鍵でも開けることが出来なかった。

 

建物を外から見た様子や部屋の構造などから、容易にそこが『トイレ』であることは分かるのだが、親父さんの説明では「トイレは1つ」ということだった。

 

既に1階を見て回った時にトイレは確認している。

 

(じゃあ、ここは・・・)

 

単に親父さんの記憶違いか、あるいは故障か何かで使用不可なんだろうくらいに考え、それ以上はその『開かずのドア』を気に留めるものはなかった。

 

その後、各自に割り当てられた分担場所の掃除に取り掛かり、日が暮れる頃にはなんとか生活が出来る状態にはなっていた。

 

部屋割りについては、2階の4部屋に一人ずつが宿泊することになった。

 

その日は掃除の疲れとアルコールのおかげで割と早い時間に各々が各部屋に入り、そして眠りについたのだった。

 

布団に入り、どれくらいの時間が経ったのだろう。

 

身体は疲れて起きているのが辛い程なのに、なかなか寝付くことが出来ない。

 

そんな夢うつつの状態にあったその時だった。

 

※夢現(ゆめうつつ)

夢とも現実とも区別がつかない状態。

 

ビチャ

 

私は廊下の方に足を向けた格好で布団に入っていたのだが、その足元、ドアの向こうからその音は聞こえた。

 

(あの音は一体何?)

 

(気のせい・・・なのか?)

 

ビチャ

ビチャ

 

今度は確かに、はっきりと2回聞こえた。

 

ビチャ

ビチャ

ビチャ

 

その音は段々と間隔が狭くなりながら確かに聞こえてくる。

 

水分?それも粘着性の高い何かが廊下の床に滴り落ちる、そんな感じの音である。

 

時計を見ると午前3時。

 

(こんな時間に他のヤツらが何かをしているのか?)

 

(何かって・・・何をしているんだ?思いつかない・・・)

 

ビチャ

ビチャ

ビチャ

ビチャ

 

もはや恐怖に耐えかねて半身だけを起こし、廊下に向かって問い掛ける。

 

「だ、誰か居るのか?・・・おい!」

 

返事は無い。

 

布団から出て恐る恐る部屋のドアを開けると、頭だけを出してゆっくりと廊下を見回す。

 

すると廊下の突き当たり、あの『開かずのドア』の前に”ソレ”は立っていた。

 

「!!!」

 

私の叫びは叫びにはならず、息を呑む音だけが廊下に響いた。

 

しかし私は足が竦んで逃げることも出来ず、でも”ソレ”から目が離せなかった。

 

(続く)研修センターの閉ざされたドア 2/2

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