解剖実習中の奇妙な体験
3年前に大学で体験した話です。
僕は某地方医大に通ってる学生で、
その頃ちょうど解剖実習をやっていました。
実習は定刻通りに終わることが少なくて、
わりと夜中の8時くらいまで
かかることがあったんですが・・・。
その日はたまたまウチの班が最後まで
実習室に残って解剖していました。
教官たちは遅くても夜7時くらいには
帰宅するので、だだっ広い解剖実習室に
4人(僕、A君、B君、Cさん)だけ・・・。
まあ、そんなことは全然気にしなくて
普通に実習してたんだけど、
ふいに扉がガチャっと開いて
バタンと閉まる音が聞こえてきたんです。
ああ、先生か忘れ物した学生かな、
くらいに思っていたんですが、その後、
誰も入ってくる様子がありませんでした。
実習室に入るには
扉を2つ通らないといけないし、
間にある廊下は
途中で折れているので
向こう側の扉は実習室からは見えない。
なので、この時はまだ、
そんなに気にしていませんでした。
数分後に、今度は実習室の入り口近くで
足音が聞こえました。
僕たちは入り口の方に視線を送りましたが
誰もいません。
「今、誰か来んかった?」
と、みんな言ったので、
気のせいではなかったようです。
まだこの時は、
そんなに気にしていなかったんですが、
また数分後には足音が聞こえて、
振り返ると、やはり誰もいない・・・。
ちょっと気味が悪いので僕が
「ちょっと見てくるけん」
と言って実習室を出て、
廊下や更衣室などを
さっと見回したんだけど誰もいない。
「誰もおらんかったよ」と言って、
また解剖に取り掛かったんですけど、
今度はさっきよりもはっきりと
足音が聞こえました。
キュッ、キュッという音で、
雨の日に長靴履いて廊下を歩いた時
みたいな音でした。
さすがに4人とも顔が青ざめてきて、
無言でお互い見合わせました。
Cさんは泣きそうな顔をして、
僕の腕をつかんできました。
「なんやろ?」
「マジ?」
と小声で話していると、
また足音がします。
今度は実習室の中から聞こえてきました。
もう正気じゃいられません。
4人ともガタッと席を立ち、
音がした辺りを凝視していました。
「やばい!これ絶対やばい!」
「帰ろう!」
4人とも震える手で、
急いでご遺体にカバーを掛け、
そのまま実習室を飛び出しました。
その2日後、また解剖実習がありました。
僕たち4人は憂鬱な気持ちでしたが、
欠席するわけにもいかないので
仕方なく実習に出ました。
実習室に入ると、
いつもとちょっと雰囲気が違っていて
ザワついていました。
理由はすぐわかりました。
実習室の床が水浸しになっていたのです。
教授がマイクでカンカンに怒って、
「前回最後までいた班は出て来い!」
と怒鳴っていました。
仕方がないので僕ら4人で
教授の所に行きました。
事情を話すと教授の顔色が変わり、
「ちょ、ちょっと来なさい」
と教官室に連れて行かれました。
実は、解剖学教室の先生方も
昔同じ体験をしたらしいのです。
この話は学長までおよび、
一時騒動になりましたが、
御祓いをしてもらうことになり、
その後はおかしなことはありません。
もちろんウチの班の担当のご遺体は
代えてもらいました。
あの足音がご遺体のものだったのか、
他のものだったのかは、
今となってはわかりません。
(終)