毎年「川ざらい」が行われている本当の理由
ボクが育った田舎には、特に大きな施設もないのですが、2つほど「近づいてはいけない」と言われている場所がありました。
今から話すのは、そのうちの一つの『水源地と砂あげ場』についてです。
ボクが住んでいる地域では、毎年9月前になると『川ざらい』という行事が開かれています。
川ざらいの内容は、田畑に水を運ぶための川を、上流から一気に水を流してゴミを下流に流す事です。
その後に続いて、上流から大人達が残ったゴミを拾いながら下ってくるのですが、この時に近くの神社の神主さんがお祓いをしながら一緒に下りてきます。
当時子供だったボクはそれが何を意味しているのか分からなかったし、川ざらいの後は大きな魚が捕れるので、友達と一緒に遊んでいました。
高校に上がって初めての夏休みの時、父が体調を崩して川ざらいに出られなくなったので、代わりにボクが駆り出された時の事です。
住民はあるものを探している
早朝、上流の水門のところに行くと、神主さんと同地区の大人が何人もいました。
なぜか神主さんは集まった人達に神酒を配り、お祓いをしていました。
4年経った今でもあまり思い出したくない事なのですが、水門を開くと濁流のように押し寄せてくる水と、気持ち悪い何かの産声のような音が聞こえました。
その場に居合わせている大人達は、皆が手を合せながら何かブツブツと言っていました。
正直、走って逃げたかったのですが、なぜかその時は足が動かなかったのを覚えています。
やがてその奇妙な音も水門を閉ざすと同時に聞こえなくなり、大人達と一緒に川に降りて作業を開始しました。
途中に何かトラブルがあったわけでもなく、無事に川の下流まで着くと、子供達の間で「絶対近づいてはいけない場所」に到着しました。
水源地と砂あげ場です。
名の通り、砂あげ場は川上流から流れてきた石砂を陸地に上げるために大きな機械が川に掛かっています。
ただ、その場所は川底がコンクリートでもなければ地肌でもなく砂なので、下手に嵌れば大人でも出れなくなるのです。
大人達の指示で「川から上がれ」と言われたのでもう解散なのかと思っていたのですが、皆の足は家路ではなく水源地に向かっていました。
最後に流れ着いたゴミでも拾うのだろうと適当に考え、軽い気持ちで付いて行ったのです。
結果からいうと、ゴミを回収したわけでもなく、ただ最後に各貯水池の前でお祓いをして解散になりました。
翌日、同じ地区の子(神社の子)と遊んでいた時、ふと川ざらいに参加した事を話したら青い顔をされ、川ざらいが始められた理由を話してくれました。
ボク達が生まれる前、まだ水源地が完全に機能していない時に一人の子供が川で溺れ、老婆がそれを助けようとした事があったそうです。
残念なことに二人とも亡くなられたらしいのですが、二人の遺体が大量のゴミと共に、水源地の第1貯水池に流れてきたそうです。
今、その貯水池が機能していない事は知っていたのですが、他の貯水池と違い、大きな屋根に覆われて外からでは全く見えない訳が分かった気がしました。
そして当時の砂あげ場には、二人の衣服や体の一部があがったそうです。
その友達曰く、毎年のように川ざらいが行われている本当の理由は、「まだ見つかっていない体の部位があるから」だそうです。
(終)