5歳の女の子が町内の公園で殺されてから

公園

 

15年くらい前、俺がまだ中学生だった頃に体験したことだ。

 

俺が住んでいたのは大きな市の郊外にある新興住宅地で、周りは皆同じような新しい家が立ち並んでいた。

 

当時は俺の家族も引っ越してきたばかりだったので、小路を一本間違えて入ると自分の家のすぐ近くなのに迷ったりすることもあった。

 

引っ越してから半年あまり経った頃、町内で殺人事件が起きた。

 

5歳になったばかりの女の子が、町内の公園で殺されたのだ。

 

たしか日曜の午後早くのことだったと記憶している。

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殺された女の子の幽霊話が出始める

専業主婦だった母親が弟の乳母車を押して散歩の途中、知り合いと会って立ち話をしている隙に、その女の子が近くだった公園に走り込んで遊具で遊ぼうとしたが、トイレに連れ込まれ殺されてしまった。

 

しかも、この手の事件は絞殺が多いのに、刃物で腹部を刺されるという残虐な犯行だった。

 

短時間で犯行が行われたこと、現場が迷路のような新興住宅地の一角であることから、警察は近所に住む者に嫌疑をかけているという噂が広がった。

 

小学校では集団登校の班が組まれるなど、当時は大変な騒ぎになった。

 

俺は中学生で自転車通学だったが、たまたま通学路がその公園の脇の道だった為、十分に気を付けるようにと学校と家族から注意を受けていた。

 

ただ俺は男だし、中学生には見えない大柄な体格をしていて、公園から道路を挟んだ反対側には民家が立ち並んでいたこともあり、そう怖いと思うこともなく毎日通っていた。

 

その公園はさして広くはなく、ちょうど宅地一軒分くらいで、遊具は回旋塔とブランコ、ジャングルジムに砂場があるくらい。

 

トイレの周囲には10本くらいの木が立っていたが、それが犯行を隠した原因とみられ、事件後は全て伐られた。

 

その為、それまで葉陰になっていた町内の案内板がよく見えるようになった。

 

犯行があってから3ヶ月くらい経ったある日、部活の帰りだったので夜7時半くらいだったか、俺はその公園の横に自転車を停め、案内板に向かった。

 

社会の公民で「地域の発展」といった授業があり、それで町内の商店数を数えてみようと思った。

 

事件後、公園の外に街灯が設置され十分に見える明るさだったが、その時に俺はおかしなことに気付いた。

 

その案内板の半分くらいが、汚れて黒くなっている。

 

近付いてよく見ると、それは『小さな手の跡』がいくつも付いているようだった。

 

ふと、夜だから黒く見えるけれど、昼ならば赤黒いシミに見えるのではないか?と考えてしまい、急に水を浴びせかけられたようにゾッとした。

 

俺は急いで自転車に飛び乗り、全速力で家に帰った。

 

次の日の朝、その道を通るのをやめようかとも思ったが、思い切って家を早めに出て、もう一度その案内板の前に立った。

 

遠くからは全体的な汚れに見えるが、近付いてよくよく見ると、薄っすらとした沢山の小さな手の跡だった。

 

しかも、やはり乾いた血のように思える。

 

俺の住む町内は8丁目まであるが、国道を挟んで1~4丁目と5~8丁目に分かれている。

 

そして、全ての手の跡は1~4丁目側に付いている。

 

その時に俺は、この公園で殺された『女の子の幽霊話』が出ていることを思い出した。

 

それは夜半に車を走らせていると、その時間には外に出ているはずのない小さな女の子が、ヨロヨロとした足取りで道を歩いている。

 

車を止めようかどうか迷っていると、いつの間にかその子の姿は消えてしまうというような話で、学校でも噂になっていた。

 

そしてよく考えてみると、その目撃があった場所は自分の家があるのと同じ国道の西側、つまりは手形が付いている側なのだと思い当たったのだ。

 

この事に気付くと俺はとても奇妙な考えに捕らわれてしまい、物凄く怖い気持ちになった。

 

それからはその道を通るのをやめ、遠回りして学校に通うようにしていた。

 

それから3ヶ月ほどした頃、母が急病になった。

 

2~3日前から具合が悪く、病院に行ったところ風邪だろうと言われて勤めを休んでいたが、夜中に高熱と激しい咳き込みに陥ってしまい救急車を呼んだ。

 

救急車には父と俺が乗り込んで救急指定病院へと向かったが、そこは町内の7丁目、国道の東側だった。

 

幸い、急性肺炎であるものの症状は重篤ではないと分かり、父が病院で付き添うことにして俺はタクシーで家へ戻ることになった。

 

時刻は夜中の2時過ぎ。

 

俺は病院の前に待機していたタクシーに乗り込んだ。

 

そこは住宅地であり、道を通る人影はない。

 

その時、前方の家の門の陰から小さな女の子がふらふらと出てきて、車の前を横切ろうとした。

 

俺は後部座席に乗っていたが、その姿ははっきりと見えた。

 

運転手さんが急ブレーキをかけ、急いで車の外に出た。

 

一頻り(ひとしきり)辺りを見回していたが、「おかしいな、誰もいない・・・」と言って戻ってきた。

 

そして車を発進させたが、車窓から後ろを振り返った俺は見てしまう。

 

真っ黒なシルエットになった小さな女の子が、両手をあげながらスキップするように一軒の家の門内に入り込んでいくのを。

 

それから1週間ほどして、新聞に女の子を殺した犯人逮捕の記事が載った。

 

犯人は浪人中の予備校生で、本人が警察に出頭したとの事。

 

その日の新聞には書かれてはいなかったが、後日に犯人の住所を知った。

 

その場所は、あの夜に病院の帰りのタクシーの中から見た、女の子が走り込んでいった家だった。

 

犯人が逮捕されたことで俺も何となく気持ちが軽くなり、久し振りに公園の横の道を通ってみた。

 

そして案内板を見ると、小さな手の跡は以前より増えていて、さらに5~8丁目側にまで及んでいた。

 

さらに、女の子を殺害した犯人の家の上には手形ではなく文字らしきものが書かれていた。

 

その文字は薄く、しかも案内板の上の方なので俺は伸び上がってその字を読んだ。

 

そこには、たどたどしい筆跡で『ここだ』と書かれてあった。

 

(終)

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