屋根裏部屋で一目惚れした切ない初恋 2/2

天井裏

 

その後、

 

自分一人の時には何度も階段を出そうと

試行錯誤を繰り返していたが、

 

それが出来ず、

 

結局は家が完成し、

引越しする日が迫ってきてしまう。

 

引越しの日、

 

自家用車で借家と新しい家の

往復を繰り返していて、

 

荷物を運んでいる時は

自分一人が家に残ることになり、

 

特に暇を持て余していたら、

ふと父の釣竿が目に入る。

 

伸縮自在で、先っちょには

糸を通せる枠が付いている。

 

これならば・・・と、

その釣竿を使い、

 

階段の紐を縛る部分に

引っ掛けようとする。

 

引っ越しても会いたい。

別の場所でも会いたい。

 

どこに住んでいるか知りたい。

もう一度彼女に会いたい。

 

せめてお別れだけでも言いたい。

 

階段を出したことで

怒られるのも構わない。

 

そんな怒られる時の事なんか、

頭に無かったかも知れない。

 

その一心で重たい釣竿を操り、

階段を引き出すことが出来た時は、

 

文字通り飛んで跳ねて喜んだ。

 

ばたばたと階段を上がり、

天窓を開ける。

 

カビ臭いのも、

誇り臭いのも気にならない。

 

彼女はいないのかと、

天窓から顔を出して見回す。

 

前にいた場所にはいなかった。

 

そのまま首を回していき、

 

ちょうど階段を上っている背後に

あたる部分に顔を向けた時、

 

何かがある?!

 

目の前に何かがあるのが分かった。

 

近すぎて一瞬焦点が合わなかったが、

すぐにそれが女性の顔だと分かった。

 

距離にして数センチ。

 

顔はぱんぱんに腫れ、

青く充血した目からは涙のように、

 

鼻から口からもよく分からない

半透明の液体が流れていた。

 

幼いとはいえ、

それが人間ではないと直感し、

 

悲鳴を上げることも逃げることも出来ず、

ただただ恐怖に固まる。

 

その女性が愛想笑いのように

にやっと微笑むと、

 

『私の子に近づかないでね・・・

わかったぁ~?』

 

と、ぼそっと呟く。

 

わかったぁ~?の『ぁ』のところで

糸を引いて大きく口が開いた時、

 

前歯が粘液に包まれたまま

抜け落ちるのが見えた。

 

目が覚めた時には、

 

目が覚めた!と叫ぶ、

姉の声が聞こえてきた。

 

どうやらあの後、

階段からすべり落ち、

 

失禁しつつ、

白目をむいて気絶していたらしい。

 

打ち所が悪くてこうなったのだと思い、

急いで病院に向かうところだった。

 

その時の話をしても、

 

怖いテレビの見過ぎだとか

皆が言っていたけれど、

 

目はみんな恐怖していたのを

見逃してなかった。

 

失禁にしても、

 

階段から落ちてからではなく、

階段の天窓のあたりから失禁しており、

 

明らかに天井部屋を覗いた時の

ものであることが分かっていた。

 

誰一人、天井部屋を覗いた事を

咎める事もなく、

 

ただただ「忘れろ・・・」

と言われるだけで、

 

誰にも話してはいけない

出来事として封印し、

 

つい2~3年前までは、

記憶から消えてしまいそうでした。

 

父が亡くなり、

 

その後に祖父の葬儀にて

写真の整理をしていると、

 

借家に引っ越した日の

記念写真が出てきた。

 

それで、ふと、

幼い頃の思い出が蘇ってくる。

 

幼い頃から封印していた記憶なため、

 

あれは夢だったのかも知れない

と思ったけれど、

 

その話を姉にすると、

やっぱり覚えていたかと言う。

 

家族の間でも、

 

誰にも話しちゃいけない話として

みんなが覚えていたようで、

 

父と祖父が本気で御祓いを

考えていた事など、

 

面白半分に話していた。

 

あの家は、

過去に子供が天井部屋で死に、

 

奥さんがその同じ部屋で首を吊って

死んだという曰く付きの家で、

 

1階こそは何もないが、

 

天井部屋は必ず何かしら起こると

言われる場所だったそうだ。

 

家を建てたばかりということで、

出来るだけ出費を抑えたかった両親は、

 

何度か1階で泊まったりし、

2階以外は全く何もないことを確認すると、

 

それを承知で借りたそうだ。

 

めぐみという彼女のことも気になり、

借家の時に世話になった不動産屋に行くと、

 

暇だったのか、

当時の記事をひっぱり出してくれた。

 

(聞かれたら答えなきゃいけないため、

そういう記事はスクラップしているそうです)

 

それは、

引っ越す7年ほど前の記事で、

 

4歳になる女の子が

何かいたずらをしたのか、

 

父親に殴られ、

そのまま天井部屋に閉じ込められた。

 

翌朝、そろそろいいだろうと

様子を見にきた父親が、

 

死んでいる娘を見つけたというもの。

 

そして、

その1年後の記事。

 

娘の死後、家族はその家を

引き払っていたのだが、

 

母親がその天井裏で首を吊って

死んでいるのが見つかったという。

 

当時は誰も借家にはおらず、

発見が遅れ、

 

見つかった時には

腐乱が酷かったそうです。

 

そして自分は現在まで、

 

一度も容姿だけで惚れるという

一目惚れを経験した事が無く、

 

あの時に一目惚れした女の子は

そんなに可愛かったのかと思うと、

 

残念でなりません。

 

初恋は実らないって言うけれど、

これはないですよね・・・。

 

(終)

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