夜の山道をドライブしている時に遭遇したもの
これは友達の体験話。
その日、温泉好きの彼は、地方で気ままなドライブ旅行をしていた。
「夜の方がね、距離を稼げるし」
人出も交通量も少ない夜の方がドライブは快適だ。
物凄い勢いで駆け下りてゆく集団
ある峠に差し掛かったところで、彼は信号に引っかかった。
人間とは変な生き物で、街中では一つでも信号をやり過ごそうと黄色信号でアクセルを踏んだりするものだが、こんな人家の灯り一つ見えない山道の信号だと却(かえ)って律儀に止まってしまう。
(最近はこんな山奥でもLED信号なんだなぁ)
その時、信号を見ているうちに彼は変な事に気付いた。
その信号のある場所には、横断歩道も脇道も無い。
何の為に彼を止めているのか不明なのだ。
第一、そこは山肌にへばり付いた道で、右の崖も左の谷も四つん這いでも登れない様な急斜面だった。
脇道など作り様もない。
そして、あれっ?と思った瞬間、それが通り過ぎた。
「ドドドドっと、百鬼夜行が山肌を駆け下りてきた」
※百鬼夜行(ひゃっきやこう)
日本の説話などに登場する深夜に徘徊をする鬼や妖怪の群れ、および、彼らの行進である。(Wikipediaより引用)
車のヘッドライトが照らす中を、物凄い勢いで異形の物の怪の集団が駆け下りてゆく。
「月並過ぎて誰も信じてくれないが、鬼やら牛頭馬頭やら火炎車やら」
あまりに速くて、何が何やら。
「確認できたのはそれだけだったが、大半は水木しげるの漫画でも見た事もない奴らだった」
呆気にとられた彼が我に返った時には、集団は通り過ぎていた。
そして、ヘッドライトが届くか届かないかという距離に、巫女さんが立っていた。
美人だったそうだが、「綺麗というよりは端正過ぎて凄味ばかりが印象的」と。
巫女さんは彼に深々とお辞儀をした。
と同時に、今までLED信号と思っていた赤い灯りがパッと散り、二度三度ホタルのように瞬いて消えた。
巫女さんも居なくなっていた。
「その後はまさしく下り最速だったね」と彼は言った。
その日から一週間ほど彼は何故かバカヅキで、色々と良い思いをしたそうだ。
だがそれも、十日もすると元に戻ってしまったそうな。
(終)