一人になりたかった少年の半生
少年が中学一年生の時に、両親は交通事故で死んでしまった。
即死だった。
その後、少年は親戚の老夫婦に引き取られたが、少年の心は酷く荒んでいた。
少年は悪い仲間と一日の大半の時間を過ごすようになり、あまり老夫婦の家にも寄り付かなくなった。
世界に希望は無いように思えた。
彼は望み通り・・・
少年には六歳年下の弟がいた。
少年にとって弟は唯一の肉親であり、守るべき存在であった。
少年は高校に入学後、すぐにバイトを始め、それに精を出した。
老夫婦はとても優しく、少年もいつしか彼らを愛してはいたのだが、両親の喪失を経験した彼にとって、優しさや愛は危険なものだったし、中学時代の不良経験を経て、「他人に迷惑をかけるのは嫌だ」という考えを積み上げた少年は、どうしても自分の力で生きていきたかったのだ。
一人になりたかった。
金を貯めてアパートを借り、ある程度余裕が出来たら老夫婦に恩返しをするんだ、弟の誕生日にはグローブとバットを・・・。
そんな事を想いながら必死に働き、もちろん勉学にも励んだ。
日々は早回しのように過ぎ、少年は高校三年生になった。
少年はその日も遅くまで働いていた。
貯金も二百万円を越え、少年の心には確かに希望があった。
帰り道、老夫婦の家の前には人だかりが出来ており、そこに家は無く、あるのは家の残骸だった。
優しい老夫婦と守るべき弟は、優しかった老夫婦と守りたかった弟に姿を変えた。
のちに通行人のタバコの火が原因だと分かったが、そんな事はどうでもよかった。
犯人などというものにも興味はなかった。
彼は望み通り、独りになった。
まぁ、その彼って俺なんだけどね。
(終)