その店の中に入った瞬間、嫌な予感がした

リサイクルショップ

 

これは、俺が大学生だった10年くらい前、自称霊感の強い後輩の多川(仮名)と古いリサイクルショップへ行った時の話。

 

リサイクルショップと言っても、築30年は経っていそうなボロボロの外観の骨董品屋といった感じだ。

 

店の上に掲げた看板には『貴金属・骨董品・電化製品・オーディオ』と手書きで書かれており、おそらく骨董品屋からなんでも屋になったのだろう。

 

その日は多川の電子レンジを買うために出掛けていたので、ちょっと覗いてみようと俺は店に入った。

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はっきりと俺は見た

ちなみに、俺は霊感なんてものは全く信じていなくて、多川のような自称霊能力者も合コンで目立つための特技みたいなものなんだろうと内心バカにしていた。

 

だが、そんな俺でもこの店の中に入った瞬間、違和感というか何か嫌な予感がした。

 

あんな感覚はその時に初めて味わったもので、上手く言葉で言い表せない。

 

しかし、その嫌悪感の正体はすぐに分かった。

 

とにかく品物が乱雑に並べられていたのだ。

 

骨董と骨董の間にパソコンが置かれ、古書が並んでいる端にはブックレスト代わりに皿が置かれ、あまりにも規則性が無さすぎて気分が悪い。

 

そして、店内に入っても店主の姿が見えなくて、「万引きし放題だな」と多川に話しかけたつもりが多川が近くにいない。

 

多川は、まだ店先でボーっと上の看板を見ていた。

 

「おい!あったぞ!電子レンジ5千円」

 

そう声をかけると、やっと多川は店の中へ入ってきた。

 

「やっぱり中古はやめときます・・・」

 

「まぁそんな安くもねぇしな、5千円」

 

その後、すぐに多川が呟いた。

 

「それに、何かいます・・・ここ・・・」

 

一瞬ドキッとしたが、俺はイライラしてきた。

 

いかにも出そうな店でお約束の霊感かよ!と思いながらも、「どこらへんにおるの?」と聞くと、多川は黙って上を向く。

 

「上?」

 

俺も真上を見るが、薄暗い天井と蛍光灯しか見えない。

 

そのまま俺と多川は店の奥へ入って行き、階段を見つけた。

 

1階が意外と広い事にも気が付いた。

 

そして俺が階段を上ろうとした時、多川は小声で「ヤバイ・・・もう見られてる・・・」と言った。

 

コイツ、俺を怖がらせて喜んでんじゃねぇか?と思いながら階段を上った。

 

しかし、階段の1段目を上った時、周りの空気が急にひんやりしているのに気が付いた。

 

階段を上る度に何か嫌な予感がしてならない。

 

進むのを躊躇う。

 

徐々に2階が見えてきた。

 

意外と明るい。

 

最後は足元に注意しながら一気に階段を上った。

 

そして、2階の光景を見て愕然とした。

 

辺り一面全部が『着物』だ。

 

それも、成人式や結婚式で着るような派手な晴れ着だった。

 

ずらっと奥まで、カカシみたいに袖に棒を通されて立っている。

 

その時、奥の着物が揺れたように見えて、そちらに目を向けた。

 

そして、はっきりと俺は見た。

 

明らかに敵意を持った目の女性の顔だった。

 

揺れた着物の後ろには女性がいる。

 

俺は急に息が苦しくなった。

 

吐き気がした。

 

後ろから階段で上がってきた多川が何か言ったが、何を言ったのかが分からない。

 

俺はそこで意識を失った。

 

目が覚めると、多川と見知らぬおっさんが会話していた。

 

会話の内容は分からない。

 

だが、自分のいる場所は分かった。

 

まだ2階にいる。

 

着物の方はもう見れない。

 

パニック寸前になりながら逃げようとするが、上手く立てず階段の前で転げる。

 

多川とおっさんに支えられながら、なんとか階段を下りる。

 

すぐに店の外まで出て、排水溝におもいっきり吐いた。

 

真っ白なゲロが排水溝に流れる。

 

苦しくて苦しくて、このまま気を失って死ぬんじゃないかと思った。

 

そんな時、多川が俺の背中をさすりながら、「あの目を見ましたよね?」と聞いてきて、また思い出して吐いた。

 

多川は「吐けるだけ吐いた方がいいっすよ」と言ったが、俺は妙に「なるほど」と納得した。

 

多川の言葉通り、ひとしきり吐くと楽になってきた。

 

「アレが幽霊?」

 

「そんなところです。でも、幽霊というよりは怨霊だと思います。店主とも話したんですけど、あの着物は全部中古だそうです」

 

「もしかして、あの女は前の持ち主か?」

 

「そうだと思います」

 

多川は続けて、「ここからは推論ですが・・・」と説明してくれた。

 

要するに、晴れ着は成人の祝いや結婚式に親が娘に買ってくれる大事なものだが、やむにやまれぬ事情を抱えた女性が質入する場合が多いとの事。

 

そして、あの店の2階が、その晴れ着に対する未練や、うしろめたい感情が集中する場所だったとの事。

 

俺が見たあの敵意むき出しの目は、晴れ着を見に来る客を遠ざけようとする女性達の目で、俺が店に入った時点から見られていたとの事。

 

10年経った今でも、あの顔を思い出すと少し気分が悪くなる。

 

(終)

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