ヒッチハイク中に出会ったキャンピングカー 2/7
「こんな田舎のコンビニに降ろされたんじゃ、
たまったもんじゃないよな。
これならさっきの人の家に、無理言って
泊めてもらえば良かったかなぁ?」
とカズヤ。
確かに先ほどのドライバーは、
このコンビニから車で10分ほど行った所に
家があるらしい。
しかし、どこの家かもわかるはずもなく、
言っても仕方が無い事だった。
時刻は、深夜12時を少し
過ぎたところだった。
俺たちは30分交代で、
『車に手を上げるヤツ』、
『コンビニで涼むヤツ』、
に分かれることにした。
コンビニの店長にも事情を説明したら、
「頑張ってね。
最悪、どうしても立ち往生したら、
俺が市内まで送ってやるよ」
と言ってくれた。
こういう、田舎の暖かい人の心は
実に嬉しい。
それからいよいよ1時間半も過ぎたが、
一向に車がつかまらない。
と言うか、ほとんど通らない。
カズヤも店長とかなり意気投合し、
いよいよ店長の行為に甘えるか、
と思っていたその時、
1台のキャンピングカーが、
コンビニの駐車場に停車した。
これが、あの忘れえぬ、
悪夢の始まりだった。
運転席のドアが開き、
コンビニに年齢はおよそ60代くらいかと
思われる男性が入って来た。
男の服装は、カウボーイが被るような
ツバ広の帽子にスーツ姿という、
奇妙なモノだった。
俺はその時ちょうどコンビニの中におり、
何ともなくその男性の様子を見ていた。
買い物カゴに、やたらと大量の
絆創膏などを放り込んでいる。
コーラ1.5リットルのペットボトルを、
2本も投げ入れていた。
その男は会計をしている最中、
立ち読みをしている俺の方を
じっと凝視していた。
何となく気持ちが悪かったので、
視線を感じながらも俺は無視して
本を読んでいた。
やがて男は店を出た。
そろそろ交代の時間なので
カズヤの所に行こうとすると、
駐車場でカズヤが男と話をしていた。
「おい、乗せてくれるってよ!」
どうやらそういう事らしい。
俺は当初、男に何か
気持ち悪さは感じていたのだが、
間近で見ると、人の良さそうな
普通のおじさんに見えた。
俺は疲労や眠気の為に
ほとんど思考が出来ず、
「はは~ん。
アウトドア派(キャンピングカー)だから、
ああいう帽子か」
などという、良く分からない納得を
自分にさせた。
キャンピングカーに乗り込んだ時、
しまったと思った。
おかしいのだ。
何が?と言われても、
おかしいからおかしい。
としか、言い様がないかも知れない。
これは感覚の問題なのだから・・・
ドライバーには家族がいた。
もちろん、
キャンピングカーということで、
中に同乗者がいる事は、
予想はしていたのだが。
父、ドライバー、およそ60代。
母、助手席に座る、見た目70代。
双子の息子、どう見ても40過ぎ。
人間は予想していなかったモノを見ると、
一瞬思考が止まる。
まず車内に入って
目に飛び込んできたのは、
全く同じギンガムチェックのシャツ、
同じスラックス、
同じ靴、
同じ髪型(頭頂ハゲ)、
同じ姿勢で座る、
同じ顔の双子の
中年のオッサンだった。
カズヤも絶句していた様子だった。
いや、別にこういう双子がいても、
おかしくはない。
おかしくもないし悪くもないのだが・・・
あの異様な雰囲気は、実際、
その場で目にしてみないと伝えられない。
「早く座って」と
父に言われるがまま、
俺たちはその家族の雰囲気に
呑まれるかの様に、車内に腰を下ろした。
まず俺達は家族に挨拶をし、
父が運転をしながら、
自分の家族の簡単な説明を始めた。
母が助手席で前を見て座っている時は
よく分からなかったが、
母も異様だった。
ウェディングドレスのような
真っ白なサマーワンピース。
顔のメイクは、バカ殿かと見紛うほどの
白粉ベタ塗り。
極めつけは母の名前で、
『聖(セント)ジョセフィーヌ』。
ちなみに父は、
『聖(セント)ジョージ』
と言うらしい。
双子にも言葉を失った。
名前が『赤』と『青』
と言うらしいのだ。
赤ら顔のオッサンは『赤』で、
ほっぺたに青痣があるオッサンは『青』。
普通、自分の子供に
こんな名前を付けるだろうか?
俺達はこの時点で目配せをし、
適当な所で早く降ろしてもらう
決意をしていた。
狂っている。
俺達には主に、
父と母が話しかけてきて、
俺達も気もそれぞれで、
適当な答えをしていた。
双子は全く喋らず、
全く同じ姿勢。
同じペースでコーラのペットボトルを、
ラッパ飲みしていた。
ゲップまで同じタイミングで
出された時は筋が凍り、
もう限界だと思った。
「あの、ありがとうございます。
もうここらで結構ですので・・・」
キャンピングカーが発車して
15分も経たないうちに、
カズヤが口を開いた。
しかし、父はしきりに俺達を引き留め、
母は「熊が出るから!今日と明日は!」と、
意味不明な事を言っていた。
俺達は腰を浮かせ、
「本当にもう結構です」
と、しきりに訴えかけたが、
父は「せめて晩餐を食べていけ」
と言って、降ろしてくれる気配はない。
夜中の2時にもなろうかと言う時に、
晩餐も晩飯も無いだろうと思うのだが・・・。