ヒッチハイク中に出会ったキャンピングカー 6/7
駐車場から上りと下りに続く車道があり、
そこを下れば確実に国道に出るはずだ。
しかし、再び奴らのキャンピングカーに
遭遇する危険性もあるので、
あえて森を突っ切る事にした。
街はそんなに遠くない程度に
見えているし、周囲も明るいので、
まず迷う可能性も少ない。
俺達は無言のまま森を歩いた。
約2時間後、
無事に国道に出る事が出来た。
しかし、着替えもないし荷物もない。
頭に思い浮かんだのは、
あの親切なコンビニの店長だった。
国道は都会並みではないが、
朝になり交通量が増えてきている。
あんな目に遭って、再び
ヒッチハイクするのは度胸がいったが、
何とかトラックに
乗せてもらえる事になった。
ドライバーは、俺達の汚れた姿に
当初困惑していたが、
事情を話すと快く乗せてくれた。
事情と言っても、俺達が体験した事を
そのまま話してもどうかと思ったので、
キャンプ中に山の中で迷った、
と言う事にしておいた。
運転手も、そのコンビニなら知っているし、
よく寄るらしかった。
約1時間後、俺達は例の店長のいる
コンビニに到着した。
店長はキャンピングカーの件を
知っているので、
そのまま俺達が酷い目に遭った事を
話したのだが、
話してる最中に、店長は
怪訝な顔をし始めた。
「え?キャンピングカー?
いや、俺はさぁ、君達があの時、
急に店を出て国道沿いを歩いて行くので、
止めたんだよ。
俺に気を使って、
送ってもらうのが悪いので、
歩いて行ったのかな、と。
10メートルくらい追って行って、
こっちが話しかけても、
君らがあんまり無視するもんだから、
こっちも正直、気を悪くしちゃってさ。
どうしたのさ?(笑)」
・・・どういう事なのか。
俺達は確かに、
あのキャンピングカーがコンビニに止まり、
レジで会計も済ませているのを見ている。
会計したのは店長だ。
もう一人、バイトの子もいたが、
帰ったのか今はいない様だった。
店長もグルか??、不安が胸をよぎった。
カズヤと目を見合わせる。
「すみません、ちょっとトイレに」
とカズヤが言い、
俺をトイレに連れ込む。
「どう思う?」と俺。
「店長がウソを言ってるとも思えんが、
万が一あいつらの関連者としたら、
って事だろ?
でも、何でそんな手の込んだ事
する必要がある?
みんなイカレてるとでも?
まぁ、釈然とはしないよな。
じゃあ、こうしよう。
大事をとって、さっきの運ちゃんに
乗せてもらわないか?」
それが一番良い方法に思えた。
俺達の意見がまとまり、
トイレを出ようとしたその瞬間、
個室のトイレから水を流す音と共に、
あのミッ○ーマ○スのマーチの口笛が
聞こえてきた。
周囲の明るさも手伝ってか、
恐怖よりまず怒りが込み上げてきた。
それはカズヤも同じだった様だ。
「開けろオラァ!!」
ガンガンとドアを叩くカズヤ。
ドアが開く。
「な・・・なんすか!?」
制服を着た、
地元の高校生だった。
「イヤ・・・ごめんごめん、
ははは・・・」
と苦笑するカズヤ。
幸い、この騒ぎはトイレの外まで
聞こえてはいない様子だった。
男子高校生に侘びを入れて、
俺達は店長と談笑する
ドライバーの所へ戻った。
「店長さんに迷惑かけてもアレだし、
お兄さん、街までお願い出来ませんかねっ。
これで!」
と、ドライバーが吸っていた銘柄のタバコを
1カートン、レジに置くカズヤ。
交渉成立だった。
例の変態一家の件で、警察に行こうとは
さらさら思わなかった。
あまりにも現実離れし過ぎており、
俺達も早く忘れたかった。
リュックに詰めた服が心残りではあったが・・・
ドライバーのトラックが、
市街に向かうのも幸運だった。
タバコの贈り物で、終始
上機嫌で運転してくれた。
いつの間にか、俺達は車内で寝ていた。
ふと目が覚めると、
ドライブインにトラックが停車していた。
ドライバーが焼きソバを3人分
買って来てくれて、車内で食べた。
車が走り出すと、
カズヤは再び眠りに落ちた。
俺は眠れずに、窓の外を見ながら、
あの悪夢の様な出来事を思い返していた。
一体あいつらは何だったのか。
トイレの女の子の泣き声は・・・
「あっ!!」
思案が吹き飛び、
俺は思わず声を上げていた。
「どうした?」と、
ドライバーのお兄さん。
「止めて下さい!!」
「は?」
「すみません、すぐ済みます!!」
「まさかここで降りるのか?
まだ市街は先だぞ」
と、渋々トラックを止めてくれた。
この問答でカズヤも起きたらしい。
「どうした?」
「あれ見ろ」
俺の指差した方を見て、
カズヤが絶句した。
朽ち果てたドライブインに、
あのキャンピングカーが止まっていた。
間違いない。
色合い、形、フロントに描かれた十字架・・・
しかし、何かがおかしかった。
車体が、何十年も経った様に
ボロボロに朽ち果てており、
全てのタイヤがパンクし、
窓ガラスも全て割れていた。
「すみません、5分で戻ります、
5分だけ時間下さい」
とドライバーに説明し、
トラックを路肩に停めてもらったまま、
俺達はキャンピングカーへと向かった。