Sとの出会い 1/5

大学一年生の春、

 

僕は生まれて初めて自らの意思で

心霊スポットに赴くことになった。

 

大学主催の新入生歓迎会で、

 

オカルティストのKと

知り合ったのがきっかけだ。

 

歓迎会があったその週の土曜日、

深夜十時。

 

僕は待ち合わせ場所の大学正門前で

Kと落ち合った。

 

Kの話によると目的の廃病院は

街を北西に向かい、

 

その先の山を少しばかり

上った場所にあるらしい。

 

もちろん歩いては行けない。

 

当時の僕は原付バイクの免許すら

持ってなかったし、

 

そもそもこの歳で自転車すら

まともに乗れない程の、

 

『車輪オンチ』だったのだけど、

まあ、それはいいとしてだ。

 

廃病院までは、 

Kの友人のSという人が

 

車を出してくれるらしい。

 

Sは、僕と同い年で同じ学科だと

Kが教えてくれた。

 

僕はSと面識が無い。

 

先日の歓迎会にも

来ていなかった様だし、

 

まともに会うのは

この時が初めてだった。

 

僕はKに、

Sはどういう人かと尋ねてみた。

 

するとKは、

「うーん、まー、そーだなー・・・」

 

と一つ間を置いてから、

 

K「理屈好きで説教好きで頑固で

皮肉屋でリアリスト(現実主義)

 

そして可笑しそうに「うはは」と笑った。

 

僕は何を言えるでも無く、

「ふーん・・・」とだけ述べておいた。

 

とりあえず僕の中でのSのイメージが、

一昔前の特撮アニメで出てきた、

 

白髪で眼鏡のマッドサイエンティストで

固まったことだけは確かだった。

 

「KはS君と、前々から

知り合いなん?」

 

K「おう、小坊の頃からだから、

もう腐れ縁だな」

 

そう言ってKは、

また「うはは」と笑う。

 

噂をすればなんとやらと言うが、

Sがやって来たのはその直後だった。

 

正門前で待っている

僕ら二人の前に、

 

やけに丸っこいボディをした

小型車がやって来て、停まった。

 

窓が開いて、

運転手が外に顔を出す。

 

若干細目で、髪ぼさぼさ。

 

セットしていないのか、

所々寝癖の様にはねていた。

 

この人物がSの様だ。

 

残念ながら白髪では無かったが、

眼鏡は掛けていた。

 

Kが僕のことを紹介しようとすると、

Sは面倒くさそうに方手を振り、

 

S「後でいい。とりあえず入れ。

さみぃから」

 

と言った。

 

Kが僕の方を向いて『だろ?』 と、

そんな表情をした。

 

僕は、なるほど、と思った。

 

新たに僕とKの二人を乗せて、

Sの車は走り出した。

 

運転するのはSで、助手席に僕、

後部座席にはKが座っている。

 

正直、今日が初対面であるSの隣よりは、

後部座席の方に座りたかったのだけど、

 

Kが言うには、後ろは

彼の特等席だから駄目らしい。

 

そしてKはというと、 

車が発進するや否や、

 

二人分のシートにバタリと横になって

眠ってしまった。

 

Kが僕とSの間を取り持ってくれる

と思っていたので、

 

これは予想外の事態だった。

 

しばらくの沈黙。

車内にBGMは無い。

 

S「・・・Kから何処まで聞いた?

俺のこと」

 

さてどうしようかと悩んでいると、

Sがいきなり口を開き、僕は慌てる。

 

「あ、それはえっと、

えーとだね。

 

・・・S君って名前と、

 

あと理屈と説教と頑固と皮肉と

リアリストが好きって」

 

しまった、間違えた。

 

別にリアリストが好きだとは

言っていなかったな。

 

しかし弁解する間もなく、

Sは怪訝な顔をしてバックミラーを見やる。

 

S「別に好きなわけじゃない。ってか

何吹き込んでんだあの馬鹿は・・・」

 

すんません、K。

僕は心の中で謝った。

 

S「まあ、名前さえ間違ってなきゃ

それでいいんだがな」

 

「・・・S君で合ってるよね?」

 

S「ああ。それと、『君』は要らない。

Sでいい」

 

それから僕とSは、

 

互いに自己紹介も兼ねた

会話を交わした。

 

初対面の時は気難しい印象を

受けたのだけど、

 

話してみれば意外と

そうでも無く、

 

少なくともKよりは

よほど常識を持った人の様に思えた、

 

その時は。

 

いつの間にか車は市街を抜け、

 

山へと続くなだらかな坂道に

差し掛かっていた。

 

しばらくその道を上って行くと、

僅かな外灯の明かりの中に、

 

その薄灰色をした建物は

唐突に姿を現した。

 

Sがその入口の門の近くに車を停める。

ここが目的の廃病院らしい。

 

後部座席で眠っていたKが

むくりと身体を起こした。

 

K「んふー・・・ふわあぁおぉえあ。

んーだ?お、着いたみてーだな」

 

Kがドアを開けて外に出たので、

 

それを追って僕も持参の

懐中電灯を握りしめ車外に出る。

 

外は寒い。

 

門の向こうには少しばかりの

駐車スペースがあるようだったけれど、

 

『立ち入り禁止』の看板と共に、

門が閉められているので車は入れない。

 

門の向こうに見える建物は、 

昔は白かったのだろうが、

 

灰色の外壁の表面が所々剥がれ、 

細い亀裂が幾本も走っている。

 

二階建てだった。

 

一階の窓や入口には

トタン板が打ち付けてあり、

 

山を背にしたその建物は、

 

夜の暗さと相まって何とも言えない

暗鬱な雰囲気を漂わせていた。

 

(続く)Sとの出会い 2/5へ

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