Sとの出会い 3/5

今までは前座だったのか。

二階に上がる。

 

・・・キィ、キィ、キィ・・・

 

音がする。

一階に居た頃よりもはっきりと。

 

「・・・さっきから、何の音だろう?」

 

と僕は呟く。

 

K「・・・ここには、車イスの霊が出る

って噂もある」

 

とK。

 

何故か二人とも囁く様な

小声になっていた。

 

そして二人とも

声が少し震えている。

 

僕はKが例え僅かでも

怖がっていることに驚いていた。

 

こういうことは慣れっこだろう、

と思っていた。

 

存外頼りないのかもしれない。

 

ああ、そうか、

だから僕を誘ったのか。

 

Sは来てくれないから。

 

Kの評価が段々下降修正される中、

 

それを阻止しようとKはゆっくりと

音の出所へと向かい、

 

僕はその後ろを付いて行く。

 

音の出所は『202号室』と書かれた

病室の様だった。

 

まだネームプレートも、

そのまま残っている。

 

井出・・・

高橋・・・

仲瀬川・・・

 

一つプレートが空いている。

ここは四人部屋らしい。

 

キィ、キィ、・・・キィ、キィ

 

音がする。

音がしている。

 

このドアの向こうで。

 

その時、ドアの前に立つKが

何の前触れも無く、

 

K「・・・うははは」

 

と引きつった笑い声を出した。

 

憑りつかれたのかと身構えるが、

ただの緊張からくる笑いの様だった。

 

K「・・・ノックが要ると思うか?」

 

「いらないと思う・・・」

 

K「おーけー」

 

Kがノブに手を掛け、

ドアをそっと押して開く。

 

懐中電灯二本分の光の筋が

病室内を照らした。

 

部屋の端にそれぞれベッドが四つ。

マットもシーツも枕もそのままだった。

 

ドアを開けた瞬間、

僅かな風が頬を撫でる。

 

見ると、窓が割れていて

室内に風が吹きこんでいる。

 

その風のせいで、

 

半分天井から外れかけた

蛍光灯の傘が揺れて、

 

ベッドの横、

 

天井から床まで伸びる

鉄製のパイプと擦れ合って、

 

ひび割れた音を出していた。

 

音の出所はこれだったのか。

 

ふう、と隣でKが

息を吐くのが聞こえた。

 

同様にKも僕が息を吐いたのが

聞こえただろう。

 

病室内に入る。

 

窓から外を見ると、

門の向こうにSの車が見えた。

 

窓に近い方のベッドの骨組は錆付き、

シーツは黒く変色している。

 

床や天井も幾箇所か剥げており、

他の部屋は見ていないが、

 

おそらく窓が割れているせいで、

廃れるのも早かったのだと見当付ける。

 

このたった四つのベッドで、

 

一体何人の人間が

息を引き取ったのだろうか。

 

一通り室内を見終わったらしいKが、

病室を出ようとしている。

 

僕も入口のドアに向かおうとして、

しかし、ふと立ち止まる。

 

一瞬、懐中電灯の光が

何かを照らした様な気がした。

 

入口から見て右手前のベッド。

もう一度照らす。

 

ベッドの上、壁側、

枕の横に何かが見えた。

 

白を基調とした病室の中で、

その色はちゃんと自己を主張していた。

 

僕はベッドに近づいて、

それを拾い上げる。

 

折り紙だった。

 

かなり変色しているが、

青と、黒色。

 

鶴ではない。

やっこさんだ。

 

しかも袴、足が付いている。

 

二枚の折り紙を組み合わせて作る

タイプのものだった。

 

身体が青。

袴が黒。

 

誰かが患者のために

折ったのだろうか。

 

そして僕は息を呑んだ。

 

ふと、そのやっこさんを

ライトで照らした瞬間、

 

気付いた。

 

袴の色は黒では無い。

黄色だ。

 

黄色い折り紙に、

 

黒い文字がびっしりと

書き込まれている。

 

だから黒く見えたのだ。

 

『あし』

 

文字はひらがなで、

そう書かれていた。

 

よせばいいのに、

やっこさんの袴を広げる。

 

やっぱりその紙には、

 

裏表両方に隙間なく

『あし』と書かれていた。

 

文字の大きさも、方向も

バラバラだった。

 

良く見ると、

 

ベッドの下に隠れる様に

同じやっこさんが幾つも落ちていた。

 

めくったシーツの中にも、

枕の下にも。

 

割れた窓から

風が吹きこんでくる。

 

カツン・・・ギギ・・・カツ・・・

 

半分取れかけた蛍光灯の傘が揺れて、

鉄のパイプと擦れ合う音。

 

違う。

音が違う。

 

僕が聞いたのは、

こんな音じゃなかった。

 

そうだ。

それにそもそも、

 

扉が閉まっている室内で

僅かな風が音を鳴らしたとして、

 

それが一階まで聞こえてくる

はずが無い。

 

キィー・・・、キィ、キィ

 

背後であの音がした。

大きい。

 

何かが僕に近づいて来ている。

 

Kじゃない。

Kはもう病室を出ている。

 

心臓が派手に脈打つ。

息が出来なくなる。

振り返れない。

 

キ・・・、・・・

 

音が止んだ。

 

誰かがそっと僕の上着の裾を

引っ張った。

 

ちょうど小さな子供が

下から裾を引く様に。

 

意識の糸は極限まで張りつめ、

失神しても何らおかしく無かったと思う。

 

その時、

 

開いたままのドアから

光の筋が射しこんできた。

 

(続く)Sとの出会い 4/5へ

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