UFOと女の子(冬) 1/5

あの夏から約十年が過ぎた。

 

大学二年の冬休みのある日。

 

ひょんなことで故郷の街に

戻ってきた僕は、

 

友人のSとKと三人で

あのデパートを訪れていた。

 

そのひょんなことと言うのは、

冬休みに入る前、

 

大学の学食で三人で昼食を

食べていた時のこと。

 

Kの提案で、

 

その場でそれぞれ子供時代の

不思議な思い出を語ることになり、

 

僕はあの夏の

デパート屋上での話をした。

 

それに思わぬ食い付き方をしたのが、

オカルティストのKだった。

 

K「うおおUFOとかマジかよ!

 

なあ、今度さ、

そのデパート行ってみようぜ」

 

僕が散々十年以上前の話だし

今行っても仕方がないと説明しても、

 

Kは聞く耳も持たなかった。

 

K「居ないなら居ないで、

ショッピング楽しめばいいじゃん。

 

別に誰が損するわけじゃねえし。

いいだろ?」

 

「うはは」と笑うKの横で、

Sがぼそりと

 

S「・・・ガソリン代はどっちか出せよ」

 

と呟いた。

 

こうなればもう止まらない。

 

かくして数日後、

冬休みに入った僕らは、

 

Sの運転する車に乗って

僕の故郷へと出発したのだった。

 

僕は県内の大学に進学したのだけれど、

 

実家のある街までは

国道なら車で大体三時間はかかる。

 

朝の九時頃から車を走らせ、

 

デパートの外観が見えてきたのは

陽も昇った正午過ぎだった。

 

ちなみに、面倒くさいので

実家に寄らなかった。

 

日帰りだし、

どうせ年末戻って来るのだし。

 

Sが立体駐車場の一階に

車を停めた。

 

周りは昼時だと言うのに、

 

繁盛しているとは言えない

駐車状況だった。

 

おそらく、街の郊外に

 

大手の大規模なショッピングモールが

出来たせいだろう。

 

昔、このデパートが街の商店街から

客を奪ったのと同じことだ。

 

駐車場から店内に入る。

 

確かに昔ほどの人込みはないけれど、

胸に込み上げてくるものがあった。

 

実は約十年前、

 

屋上でわんわん泣いた

あの日から、

 

僕はこのデパートには

近づかない様になっていた。

 

母の買い物に付いて行くのも止め、

 

中学生の頃も、

高校に上がってからも避け続けた。

 

そうして、消えたUFOのことも、

そこで出会った女の子のことも、

 

これまで周りの誰にも、

親にさえ話したことはなかった。

 

何故かと訊かれると、

僕にも分からないと言うしかない。

 

だから、どうしてその隠してきた話を

KとSの二人だけには打ち明けて、

 

今自身も十年とちょっとぶりに

このデパートにやって来ているのかも、

 

当然分かっていない。

 

強いて言うなら、

魔が差したんだろう。

 

僕らは一階からエスカレーターを使って

四階まで上がった。

 

屋上へは四階から階段を

使わないといけない。

 

階段へ向かう途中、

百円ショップの隣、

 

昔いつも買い物をしていた

駄菓子屋の横を通る。

 

ふと横目で見ると、

 

レジの方に見覚えのある

店員さんの姿を見つけた。

 

十年前と変わらぬ陳列棚にも、

昔と同じ駄菓子が並べられていた。

 

あのラムネ菓子もあった。

 

屋上へと続く階段は、

 

手すりの白い塗装が

記憶よりも随分剥げていて、

 

錆びた鉄の部分が露出していた。

 

屋上への入り口が見えた。

 

前を行く二人の友人の後ろで

僕は一度立ち止まる。

 

夏。

 

階段を一段上るにつれて、

差し込んでくる光の量は増していき、

 

青い空と沢山の遊具が、

徐々に徐々に見えてくる。

 

それが何だか無性にワクワクして、

 

途中から僕はいつも走って

駆け上るのだった。

 

その記憶の中の光景に比べると、

 

冬の光は弱く、空は少し

くすんでいる様に見えた。

 

いつの間にか階段を上がりきり、

僕は屋上の入り口に立っていた。

 

こんなに狭かったかなと思う以外は、

屋上は最後に見た記憶のままだった。

 

やはりUFOのあった場所は、

ただの空きスペースのままだった。

 

僕ら以外に人影も見当たらない。

 

音を立てて吹く冬の風のせいか、

遊具で遊ぶ子供の姿も無かった。

 

K「さみいなあ。なあなあ、

ところでUFOどこよ?」

 

ポケットに手をつっこんだKが

そう訊いてくる。

 

僕は黙って昔それがあったはずの

場所を指差した。

 

K「何もねえじゃん」

 

「僕はゆった。

今行ってもなんも無いよって」

 

K「ふーん。UFOだけに、

宇宙まで飛んでっちまったのかねえ・・・」

 

つまらなそうにそう言うと、

 

Kはクモの巣状に張られたネットの真ん中に

トランポリンがある遊具に向かい、

 

一人でポンポンと跳ね始めた。

 

ふと見やると、

 

Sが昔UFOがあった場所で、

俯いて地面を見つめている。

 

(続く)UFOと女の子(冬) 2/5へ

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