やまびこ 2/4

ダム湖横の広場から、

 

山頂に続くという細い山道を

一列になって歩いた。

 

列の途中途中にいる

お守役の兄ちゃんが、

 

提灯のような明かりを持っていたので、

そう暗くはなかったが、

 

祭りの明かりから離れるにつれ、

 

夜の山の雰囲気は

不気味さを増していった。

 

俺は知らぬ間に、前を行く

姉貴の裾を掴んでいた。

 

虫や鳥の鳴き声以外、

誰も声を出さなかった。

 

まるで肝試しだ。

 

女の子がほとんどいないことにも、

これで納得だ。

 

こんなとこに来る女の子なんてのは、

よほど変わり者か物好きだろう。

 

その物好きは、

 

俺の前でさっきから全く喋らずに

黙々と歩いている。

 

こんなに登るのかと内心愚痴る程、

道は急で長かった。

 

随分高いとこまで来ただろうと

思ったところで、

 

いきなり開けた場所に出た。

 

一枚の大きな岩が

山肌から突き出ていて、

 

俺たちはその岩の上に

いるようだった。

 

周りは落下防止用のフェンスで

囲まれている。

 

お守役の男子の一人が

俺ら姉弟を含め付いて来た子供たちに、

 

「今からあそこで叫ぶんだ」

 

と説明した。

 

カードに書かれた番号順。

俺と姉貴は最後の方だった。

 

暗くてよく分からなかったが、

岩の向こうは谷か崖のようだった。

 

その向かい側、遠く微かに

黒い山脈の影が見える。

 

最初の男の子が、

岩の先に立って

 

ありったけの声で叫んだ。

 

よく聞き取れなかったが、

 

ゲームか何かが欲しいと

叫んだんだろう。

 

若干のタイムラグの後、

 

その声はしっかりとした

やまびことなって返って来た。

 

「・・・誰の声だろ?」

 

隣の姉貴がぽつりと呟く。

 

俺はてっきり、

さっきのやまびこのことだと思い、

 

K「誰って、やまびこじゃん」

 

と若干馬鹿にしたように言った。

 

しかし姉は、俺の話を

聞いていないようだった。

 

辺りをきょろきょろと見回している。

 

そうこうしているうちに、

二人目、三人目と、

 

子供たちは順番に叫んでいった。

 

意中の子へのありったけの想いを

叫ぶ男の子もいた。

 

その全てが、

やまびこになって返って来る。

 

「やっぱり聞こえる。

・・・違う。誰。誰?」

 

そうしてやまびこが返って来る度に、

姉貴の様子はおかしくなっていった。

 

俺が半ば本気で心配しかけた時、

 

姉貴はカードの順番を無視して

走るように進み出た。

 

周りの何だ何だという雰囲気も、

順番を守れという声も、

 

姉貴には届いていないようだった。

 

突き出た岩の先、

落下防止のフェンスを掴み、

 

姉貴は大声で叫んだ。

 

「誰!?答えてっ!」

 

大声だったのに

姉貴の声は返って来なかった。

 

代わりに、

 

地の底から吹き上げるような

強い風が吹いた。

 

それはまるで人間の唸り声みたいで、

その場にいた全員が固まったと思う。

 

ただ一人、姉貴を除いて。

 

俺の直感が『何かやっべえぞ!』

と警告を発した。

 

それと同時だった。

突然、姉貴が笑いだした。

 

「うはははは」という、

 

正気とも狂気ともつかない

笑い声だった。

 

呆気に取られる俺を含め

周りをよそに、

 

フェンスを掴み崖下を覗き込みながら

姉貴は笑う。

 

笑いながら叫んだ。

 

「すごい、すごい、すごいっ。

人だ。やまびこなんかじゃない!

 

這い上がって来る。

わっ、すごい。

 

ほら、来て。

皆にも見せてあげて!」

 

その瞬間、

別の叫び声が上がった。

 

俺の傍にいた一人の子供が

出したものだった。

 

その叫びはやまびことなり、

こだまする。

 

俺も叫びたかった。

 

人だ。

 

何本ものあり得ないくらい

長く細く白い腕が、

 

崖下から伸びて

フェンスを掴んでいた。

 

何かが這い上がって来ているのか。

 

姉貴は胸から上をフェンスから

身を乗り出して笑っている。

 

それは心底楽しそうに。

 

気付けば辺りは

パニックになっていた。

 

叫び声は叫び声を誘発し、

場の混乱は個人の思考の自由を奪う。

 

ほとんどの者がその場を逃げ出し、

 

あっという間に岩の上に残っているのは

俺と姉貴だけになった。

 

実際のところ、

俺だって逃げたかった。

 

けれど、

そもそも足が震えて動かない。

 

それに姉貴を残して

逃げるわけにもいかない。

 

K「・・・ね、ねえちゃん」

 

辛うじて声が出た。

けれど姉貴には届かない。

 

俺は目を瞑り、

一度深呼吸をして、

 

目を瞑ったまま叫んだ。

 

K「ねえちゃん!」

 

一瞬の間、俺の声が

やまびことなって戻って来る。

 

ゆっくりと目を開くと、

姉貴がこちらを振り向いていた。

 

(続く)やまびこ 3/4へ

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