禁后(パンドラ)2/7
「てことは、秘密は二階かな」
私とD子は、D妹の手を取りながら
二階に向かおうと廊下に出ます。
しかし、階段は・・・と廊下に出た瞬間、
私とD子は心臓が止まりそうになりました。
左に伸びた廊下には途中で浴室があり、
突き当たりがトイレなのですが、
その間くらいの位置に鏡台が置かれ、
真前につっぱり棒のようなものが
立てられていました。
そして、その棒に
髪が掛けられていたのです。
どう表現していいかわからないのですが、
カツラのように髪型として
形を成したものというか、
ロングヘアの女性の後ろ髪が、
そのままそこにあるという感じです。
(伝わりにくかったらごめんなさい)
位置的にも、平均的な身長なら
大体その辺に頭がくるだろうというような
位置で棒の高さが調節してあり、
まるで『女が鏡台の前で座ってる』のを
再現したみたいな光景。
一気に鳥肌が立ち、
「何何!?何なのこれ!?」
と軽くパニックの私とD子。
何だ何だ?と廊下に出てきた男三人も、
意味不明な光景に唖然。
D妹だけが、「あれなぁに?」と、
きょとんとしていました。
「なんだよあれ?本物の髪の毛か?」
「わかんない。触ってみるか?」
A君とB君はそんな事を言いましたが、
C君と私達は必死で止めました。
「やばいからやめろって!
気持ち悪いし絶対何かあるだろ!」
「そうだよ、やめなよ!」
どう考えても異様としか思えない
その光景に恐怖を感じ、
ひとまずみんな居間に引っ込みます。
居間からは見えませんが、
廊下の方に視線をやるだけでも嫌でした。
「どうする・・・?廊下通んないと
二階行けないぞ」
「あたしやだ。あんなの気持ち悪い」
「オレもなんかやばい気がする」
C君と私とD子の三人は、
あまりに予想外のものを見てしまい、
完全に探索意欲を失っていました。
「あれ見ないように行けば大丈夫だって。
二階で何か出てきたって、
階段降りてすぐそこが出口だぜ?
しかもまだ昼間だぞ?」
AB両人はどうしても二階を見たいらしく、
引け腰の私達三人を急かします。
「そんな事言ったって・・・」
私達が顔を見合わせ、
どうしようかと思った時、
はっと気付きました。
「あれ?D子、○○ちゃんは?」
「えっ?」
全員、気が付きました。
D妹がいないのです。
私達は唯一の出入口である
ガラス戸の前にいたので、
外に出たという事はありえません。
広めといえど、居間と台所は
一目で見渡せます。
その場にいるはずのD妹が、
いないのです。
「○○!?どこ!?返事しなさい!!」
D子が必死に声を出しますが、
返事はありません。
「おい、もしかして上に行ったんじゃ・・・」
その一言に、全員が廊下を見据えました。
「やだ!なんで!?
何やってんのあの子!?」
D子が涙目になりながら叫びます。
「落ち着けよ!とにかく二階に行くぞ!」
さすがに怖いなどと言ってる場合でもなく、
すぐに廊下に出て、
階段を駆け上がっていきました。
「おーい、○○ちゃん?」
「○○!いい加減にしてよ!
出てきなさい!」
みんなD妹へ呼び掛けながら
階段を進みますが、返事はありません。
階段を上り終えると、部屋が二つありました。
どちらもドアは閉まっています。
まず、すぐ正面のドアを開けました。
その部屋は、外から見たときに
窓があった部屋です。
中にはやはり何もなく、
D妹の姿もありません。
「あっちだな」
私達は、もう一方のドアに近付き、
ゆっくりとドアを開けました。
D妹はいました。
ただ、私達は言葉も出せず、
その場で固まりました。
その部屋の中央には、下にあるのと
全く同じものがあったのです。
鏡台と、その真前に立てられた棒、
そしてそれにかかった長い後ろ髪。
異様な恐怖に包まれ、
全員茫然と立ち尽くしたまま
動けませんでした。
「ねえちゃん、これなぁに?」
不意にD妹が言い、次の瞬間、
とんでもない行動をとりました。
D妹は鏡台に近付き、三つある引き出しの内、
一番上の引き出しを開けたのです。
「これなぁに?」
D妹がその引き出しから取り出して、
私達に見せたもの・・・
それは、筆のようなもので
『禁后』と書かれた半紙でした。
意味がわからず、
D妹を見つめるしかない私達。
この時、どうしてすぐに動けなかったのか、
今でもわかりません。
D妹は構わずその半紙をしまって
引き出しを閉め、
今度は二段目の引き出しから
中のものを取り出しました。
全く同じもの、『禁后』と書かれた半紙です。
もう何が何だかわからず、私はガタガタと
震えるしか出来ませんでしたが、
D子が我に返り、
すぐさま妹に駆け寄りました。
D子も、もう半泣きになっています。
「何やってんのあんたは!」
妹を厳しく怒鳴りつけ、半紙を取り上げると、
引き出しを開けしまおうとしました。
この時、D妹が半紙を出した後、
すぐに二段目の引き出しを
閉めてしまっていたのが問題でした。
慌てていたのか、D子は二段目ではなく
三段目、一番下の引き出しを開けたのです。
ガラッと引き出しを開けたとたん、D子は
中を見つめたまま動かなくなりました。
黙ってじっと中を見つめたまま、
微動だにしません。
「ど、どうした!?何だよ!?」
ここでようやく私達は動けるようになり、
二人に駆け寄ろうとした瞬間、
ガンッ!!と大きな音をたて、
D子が引き出しを閉めました。
そして肩より長いくらいの
自分の髪を口元に運び、
むしゃむしゃとしゃぶりだしたのです。
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