10円 2/2

10円

 

昭和5×年と刻印されているその下に、

なにか鋭利なもので付けられたと思しき傷がある。

 

小さくて見え辛いが、

 

『K&C』

 

と読める。

 

「これは?」と問うと、

「私が彫った」と言う。

 

犯罪じゃないかと思ったが、

突っ込まなかった。

 

「高1だったかな。

 

15歳だったから、

何年前だ・・・

 

6年くらいか。

 

学校で友だちとこっくりさんをしたんだよ。

自分たちは霊魂さまって呼んでたけど。

 

それで使い終わった10円をさ、

 

持ってちゃダメだっていう話を

聞いたことあると思うけど、

 

私たちの間でも、

 

すぐに使わなきゃいけない

なんていう話になって、

 

確かパン屋でジュースかなにかを

買ったんだよ」

 

僕も経験がある。

 

僕の場合はこっくりさんで使った紙も、

近くの稲荷で燃やしたりした。

 

「使う前に、

ちょっとしたイタズラを考えた。

 

そのころ流行ってた噂に、

そうして使った10円が、

 

何度も自分の手元に還って来る

っていう怪談があった。

 

でも、どうしてその10円が、

自分が使ったやつだってわかるんだろう、

 

と常々疑問だった。

 

だから還ってきたらわかるように、

サインをしたんだ」

 

それがここにあるということは・・・

 

「そう。

 

そんなことがあったなんて

完璧に忘れてたのに、

 

還って来たんだよ。今ごろ」

 

4日前にコンビニでもらったお釣りの中に、

変な傷が付いてる10円玉があると思ったら、

 

まさしくその霊魂さまで使用した

10円玉だったのだと言う。

 

微妙だ、と思った。

 

10円玉が世間に何枚、

流通しているのか知らないが、

 

所詮同じ市内の出来事だ。

 

僕らは毎日のように

お金のやりとりをしてる。

 

6年も経てば、

 

一度くらい同じ硬貨が

手元に来ることもあるだろう。

 

普段は10円玉なんてものを個体として

考えないから意識していないだけで、

 

案外ままあることなのかも知れない。

 

ただ確かに、

 

その曰くがついた10円玉が、

というところは奇妙ではある。

 

「どこで使われて、何人の人が使って、

私のところまで戻って来たんだろうなあ」

 

感慨深げに、

京介さんは10円玉を照明にかざす。

 

僕はなぜか救われたような気持ちになった。

 

喫茶店を出る時、

 

「奢ってやる」

 

という京介さんに恐縮しつつも、

 

お言葉に甘えようと構えていると、

目を疑う光景を見た。

 

レジでその10円玉を使おうとしていたのだ。

 

「ちょっとちょっと」

 

と止めようとする僕を制して、

 

「いいから」

 

と京介さんは会計を済ませてしまった。

 

「ありがとうございました」

 

とお辞儀した店員には、

 

どっちが払うかで揉める客のように

見えたかも知れない。

 

歩きながら僕は、

 

「どうしてですか」

 

と問いかけた。

 

だって、

 

そんな奇跡的な出来事の

証しなのだから、

 

当然自分自身にとって、

 

10円どころの価値ではない

宝物になるはずだ。

 

しかし京介さんは、

 

「また還って来たら面白いじゃないか」

 

とあっさりと言い放った。

 

聞くと、

 

その10円玉が手元に戻って来た時から

決めていたのだと言う。

 

ただ、10円玉を支払いに使う機会が

今まで偶々なかっただけなのだと。

 

歩幅が僕よりも広い。

 

少し早足で追いかける。

 

その歩き方に、

迷いない生き方をして来た人だという、

 

憧れとも尊敬ともつかない感情が

沸き起こったのを覚えている。

 

追いついて横に並んだ僕に、

京介さんは思いついたように言った。

 

「奢る必要があっただろうか」

 

そんなことを今さら言われても困る。

 

「私の方が年上だけど、

私は女でそっちは男だ」

 

ちょっと眉にシワを寄せて考えている。

 

そして、

 

哲学を語るような真面目な口調で

言うのである。

 

「あのコーヒーだけだと、

10円玉は使わなかったはずだ。

 

オレンジジュースが加わってはじめて、

10円玉が出ていく金額になる。

 

これはノー・フェイトかも知れない」

 

そんな言葉を呟いて、

苦笑いを浮かべている。

 

その意味はわからなかったけれど、

 

彼女の口から踊るその言葉を

とても綺麗だと思った。

 

思えば、『K&C』と刻まれた10円玉が

京介さんのもとへと還って来たのは、

 

そのあとに起こったやっかいな出来事の

兆しだったのかも知れない。

 

(終)

次の話・・・「図書館 1/2

原作者ウニさんのページ(pixiv)

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