亡き父からもらったオルゴール
これは、少し不思議な体験をした話。
私が小学生の頃、父がお土産にペンギンの形をした電子オルゴールを買ってきてくれた。
レット・イット・ビーのサビだけが流れるもので、気に入っていたのに何年かすると音が出なくなったが捨てられず、ずっと引き出しの中にしまい込んでいた。
時は過ぎ、私が高校を卒業してすぐに、父が事故で亡くなった。
その数年後、実家を建て替えることになり、他県に進学していた私は帰省して部屋を片付け、私物はほとんど捨てることにした。
全部は持ってはいけなかったので、あのペンギンも捨てることにした。
父との思い出の品はそれだけではなかったから。
一通りゴミをまとめ、後は捨てるだけと思っていたら、ゴミの中からおかしな音がした。
不思議に思って音の出どころを探してみると、ペンギンがヨロヨロとしたレット・イット・ビーを奏でていた。
なんだか「捨てないで」と言っているように思えて持ち帰ったけれど、それっきりうんともすんとも言わなかった。
それからまた時は過ぎ、娘が生まれた。
何がどうしてだか思い出せないけれど、ペンギンを赤子だった娘に持たせた。
娘の小さな指が再生ボタンに触れると、綺麗なレット・イット・ビーが流れ出した。
捨てようとした時に流れたヨロヨロしたメロディーではなく、途切れることも音を外すこともなく、思い出にあるままの綺麗なレット・イット・ビーだった。
ペンギンは少しのあいだ娘の物になっていたが、娘が飽きた頃に回収した。
ペンギンはもう鳴らないけれど、今も私の宝物だ。
(終)