カマドの炎の中から話しかけてくる声
この話は、実際に体験した不思議な出来事。
山奥の田舎暮らしだった俺は、家の風呂が薪で焚く五右衛門風呂なような古さで恥ずかしく、友達を家に呼ぶのが嫌だった。
しかし、風呂を焚くのは大好きで、揺らぐ炎の色や音が心地良かった。
ゴウゴウと唸る炎の音の中に、いつしか俺を呼ぶような話しかけてくるような声や音を聞くようになり、それを目安に薪をくべるようになった。
そんなある日、俺は山で迷ってしまった。
歩き慣れた道で「まさか」と思った。
あちこちと歩き知った道へ行こうと思っても、ますます分からなくなった。
日は陰り始め、気温はどんどん下がり、いよいよマズイと本気で思った。
「そういえばいつもこの時間は風呂を焚いている時間だなあ」と思った時、どこからかあの炎の中から話しかけてくる声を聞いた気がした。
縋(すが)る思いで声のような音につられて歩いた。
すると、知った道に辿り着き、ほっとして涙が出た。
家に着き、遅めの風呂焚きをしながら、俺はゴウゴウと唸る炎に礼を言った。
あれはひょっとして『カマドの神様』かもしれない、と今でも思っている。
(終)
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