田舎村の風習 7/8

昔、この村には

 

『まつり』と呼ばれる

村の長がいた。

 

正確には、

 

その村の長が『まつり』と

呼ばれるのではなく、

 

村の長の一族全体を指して

『まつりの一族』だったらしい。

 

まつりはその土地の

治安自治の他に、

 

もうひとつ役割をもっていた。

 

それは、

今で言えば葬儀人。

 

村で死者が出た時、

 

成仏できるように

式典を行っていた。

 

『まつり』と呼ばれる所以は

それだった。

 

『末に至り』を『末り』と言い、

 

葬式、つまり祭典を行うことの

『祭り』であり、

 

神仏を祀る『祀り』であった。

 

ある時、まつりの長男が

急死してしまった。

 

原因はわからない。

 

いずれは次代の長になるであろう、

たくましく人望厚い青年だった。

 

その時の村の長を務めていた

父親は、

 

どうしても長男の死を認めることが

できなかった。

 

父親は長男を溺愛していたのだ。

 

しかし、

まつりの一族である以上、

 

長男の葬儀は自分たちで

行わなければならない。

 

死んで次第に蒼くなっていく

長男の化粧をしながら、

 

父親は悲しみに支配された。

 

そうして父親がとった行動は

信じられないものだった。

 

我が子であるその長男を

食ったのだ。

 

煮たのか、焼いたのか、

 

それとも生で食ったのかは

わからないが、

 

長男の全身をついばんだのだ。

 

そして父親は、

それを隠すことも無かった。

 

一族を集め、

皆の前でこう言ったのだ。

 

『人肉の、なんと美味たることか。

 

腕も美味い。

足も美味い。

 

腹も胸も、顔も美味い。

 

しかし、

 

心臓の美味たることには

かなわない。

 

この心臓より

美味いものは無い。

 

私は息子の命を喰った。

 

しかし、

死した長男の生命は、

 

今も私の中で

脈打っているのがわかる。

 

お前たちも食え。

 

長男の魂が、

 

自分の体に宿るのが

はっきりわかるだろう』

 

まつりの他の者は驚いたが、

 

長男の死に悲しみ暮れる者は

父親だけではなかった。

 

最初に母親が、

次に長男の妻が。

 

姉が、次男が、子供が、

死んだ長男の肉を食った。

 

そして、食った者は

こう言うのだ。

 

『人肉の、なんと美味たることか。

 

腕も美味い。

足も美味い。

 

腹も胸も、顔も美味い。

 

しかし、

 

心臓の美味たることには

かなわない。

 

この心臓より

美味いものは無い』

 

それからまつりの一族は、

 

家族で死者が出ると、

その亡骸を喰らうようになった。

 

しかし、

 

人肉食いたさに人を殺すことは

決して無かった。

 

死者を食らう以外は

正気だったし、

 

むしろ、村人に死者が出ると

自分たちが食べるのではなく、

 

その家族に死んだ者を

食べるように勧めた。

 

最初は気味悪がっていた村人も、

 

死者を食べたまつりの一族が

若々しく活力に溢れ、

 

たくましくなったのを目にすると、

 

勧められたとおりに、

死んだ家族を食べるようになった。

 

するとどうだ。

 

これまで病気がちだった者も

体が丈夫になり、

 

若い男は巨躯の体に、

若い女は美しく、

 

年老いた老人も

若若しくなった。

 

まつりの一族だけでなく、

村人皆がこう考えるようになった。

 

死んだ者の生命をもらうのだ。

 

それには心臓を喰らうのが

一番良い。

 

心臓にかなう肉はない。

 

腕や脚は食べなくても、

心臓だけは皆食べた。

 

しかし、この風習は

長くは続かなかった。

 

どこから来たのか、

 

ある一家族、いや

一族が村に移住してきた。

 

この一族が、

 

死者を喰らう村の風習を見て

こう言い放ったのだ。

 

『死者をもう一度殺すとは

なんと罰あたりな。

 

一度命を落とし、

 

いま天に昇ろうとする

者の命を喰らうとは。

 

死者を殺す以上の

罪は無い。

 

鬼の所業だ』

 

狂気の沙汰を失えば、

これこそ正論だった。

 

死者の胸を切り裂き

心臓を取り出していた村人は、

 

次第に罪悪感にさいなまれ

死者を食うのを止めたが、

 

まつりの一族だけは

止めることはなかった。

 

これまで多くの死者を

見送っていたからだろう。

 

そんな言葉は意味の無いことだと、

そう考えたのだ。

 

それからどれくらいだろうか。

 

村人の信頼を得た

移民の一族は、

 

まつりの一族に代わって

この土地の長となった。

 

死者を喰らうのを止めなかった

まつりの一族は、

 

いつの間にか

この土地から消えていた。

 

と、そこでかあちゃんは

ひと息ついた。

 

俺母「なぁ?怖いじゃろ?」

 

「なんじゃ、

死んだ家族を食ってしまうて。

 

ウソじゃろ」

 

俺母「おうおう、

怖がっとるのぅ。

 

どうするかい?

最後まで聞くか?」

 

「最後までって・・・

話は終わりと違うの」

 

俺母「まだじゃ。

 

こっからがホントに

エグイんじゃ」

 

そして、かあちゃんは

話を続けた。

 

まつりの一族に代わって

土地を治めた移民の一族こそ、

 

鬼の一族だった。

 

鬼の一族は言葉巧みに

村人を扇動し、

 

村で逆らうものはいなくなった。

 

そして、鬼の一族は

黒い箱を持ってこう言うのだ。

 

『この村には、

 

忌まわしきまつりの一族の

血が残っている。

 

この箱はまつりの血を嗅ぎわける、

まじないの箱だ。

 

箱の中には、

 

それぞれの氏(うじ)を書いた

神木が入っている。

 

この箱で、まつりの血が混ざる

氏を見つけよう。

 

その氏の人間から、

 

一番まつりの血の色濃い者を

殺すのだ』

 

鬼の一族はその箱から

一枚木の板を取り出すと、

 

その板に書かれた姓を持つ

村人全員を山へ連れて行った。

 

連れて行かれた村人は、

 

その日のうちに

山から帰ってくるが、

 

その人数は一人

少なくなっていた。

 

山に連れて行かれた

村人の話では、

 

山の中には鬼の一族が建てた

屋敷があるらしい。

 

そこで、別の黒い箱から、

木の板を一人ずつ引かされる。

 

箱と同じ黒い板を引いた者こそ、

まつりの血の色濃い者とされ、

 

その者を残して

みんな帰って来たのだ、と。

 

村人も馬鹿ではない。

そのうち気付いたのだ。

 

(続く)田舎村の風習 8/8へ

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