暗闇から聞こえてきたもの
その時は確か冬でした。
こたつの中で寝てしまった私を、家族はそのままにして各々寝床についていました。
疲れて寝てしまったとはいえ、半端な時間に寝れば、起きるのも半端になります。
起きたのは夜の1時過ぎだったと思います。
暗くて時計は良く見えませんでしたから。
「参ったな・・・宿題やってないや」と思って布団をめくり、起き上がる前に何か異変を感じました。
「ニャア」という、猫の鳴き声がしていたのです。
気味の悪い、ただの悪夢?
私は少し訝しみましたが、猫がさかっているのだと思い、暗い外に目だけを向けました。
すると、薄暗闇に何か大きな影が見えました。
それは、じっとこちらを向いています。
そして、その影から断続的に「ニャア」という声が聞こえるのです。
カーテンの開いたガラス戸から覗くその影は、暗くて表情が見えませんでした。
ですが、それは間違いなく『人間』でした。
発する声を除けば、ですが。
「ニャア、ニャア、ニャア・・・」
声は何かを訴えるような抑揚も無く、ただ一定に鳴いているだけでした。
向こうは灯火と月の光で明るく、こちらは暗い室内。
こちらからそいつが見えても、向こうはガラスが鏡のようになって中を覗うことは難しいはずです。
気付くことが無いはず。
それでも怖い。
私は身動きが取れませんでした。
しかし、10分20分と経っても、それは変わらずにそこに居続けました。
仮に障害者だとしても執拗で、変質者としては静か過ぎる。
ただ鳴くだけで、それだけなのです。
「ニャア、ニャア、ニャア・・・」
気味が悪いけれど単調な声であるせいか、身動きが取れない私は思考がどんどん鈍化し、眠くなってしまいました。
今思えば変な話です。
つい先程まで寝ていたのに、それに緊張しきっている自分がこうも簡単に寝入ってしまうなんて。
でも、そのままプツンと意識は途切れ、私はそいつを見失いました。
翌日、朝起きればその場所には何も無く、家族に訊いても誰も気付いてはいませんでした。
庭の芝に特に異変はなく、雨も降っていなかったので足跡の類も見つかりません。
親には「夢を見ていたのだろう」と諭され、渋々頷いたのを覚えています。
ひょっとすると本当に、ただの夢だったのかも知れません。
気味の悪い、ただの悪夢。
でも、今も思い出してしまいます。
あの「ニャア」という鳴き声を・・・。
そのせいか、猫のさかる声は今も苦手です。
(終)