「ああ、ひょっひょさんが来たよ」
これは、友人から聞いた話。
彼女が幼かった頃、冬になると祖母が時々こんなことを言っていたそう。
「ああ、ひょっひょさんが来たよ」
そして次の朝、夜明けの光がまだ差してこないうちから祖母に起こされる。
眠い目を擦りながら庭へ出ると、一面に霜が降りて真っ白な中、池に架かった橋の上には『小さな小判型の跡』が五つ六つ付いている。
祖母がそんなことを言った翌朝には必ず跡はあるが、何にも言わない日には何もない。
やがて祖母が亡くなり、ひょっひょさんのことも忘れてしまっていた。
しかしある晩、彼女は受験勉強をしていると、不思議な声が側を通り過ぎて行った。
「ひょっ、ひょっ、ひょっ、ひょっ、ひょっ・・・」
まるで、石から石へと飛び移っている少年のような声。
ふと祖母の話を思い出し、目覚しをうんと早い時間に合わせてすぐ寝床に入った。
次の朝、まだ薄暗がりの中、庭の池を見に行くと、橋の上にはやっぱり小判型の跡がいくつか残っていた。
母に聞いても、全く何もわからないそう。
「今度は私がひょっひょさんを孫に伝えることになるのかしらね」
友人はそう言って首を傾げていた。
※「ひょっひょさん」という呼び名は仮名
(終)