カッパのような生き物に襲われた先生の話

カッパ

 

これは、昭和のある田舎での話。

 

俺が小学生の時、理科の先生が夜更けの帰り道で『カッパのような生き物』に襲われたらしい。

 

曰く、用水路沿いを歩いていたら突然背後から襲われ、組伏せられた後、片手を掴まれて凄い力で引きずられたとか。

 

先生は無我夢中で胸ポケットにあったボールペンをその生物の腕に突き立て、怯んだところを近くの民家に逃げ込んだ。

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この話が嘘や幻には思えない

その家の主人に事情を話し、武装して恐る恐る見に行くと、生物はすでに立ち去った後で、弁当箱を入れてあった巾着袋が持ち去られていた。

 

生物の風貌は暗くてよく分からなかったが、背丈は小学校高学年くらいで、肌はヌメヌメしており、声などは発しなかったそうだ。

 

とにかく力の強さは半端ではなく、大学時代に柔道でならした先生でも全く太刀打ちできなかった。

 

こんな話を、朝のホームルームで半ば半狂乱の先生から聞かされた。

 

俺たちは震え上がり、女子は泣き喚いた。

 

それほど真に迫った語り口だった。

 

先生は職員会議でこの話題を出したらしく、児童の集団下校、大人の引率、そしてパトロールを徹底するよう訴えた。

 

しかし全く相手にされず、先生は半ばゲリラ的に保護者会でこの話を切り出して強く訴えたが、やはり一笑に付(ふ)されてしまったとか。

 

うちの母もその場に居合わせたが、本当に凄い剣幕だったらしい。

 

ほどなくして先生は休職してしまい、お別れ会もしないまま学校を去った。

 

一連の騒動について語ってくれる先生は誰もおらず、この話題はすぐに風化した。

 

その生物の目撃談は先生の一例だけだったが、俺はこの話が嘘や幻には思えない。

 

「誰も信じてくれない!だが先生は見たんだ!何かあってからでは遅いんだ!みんな用水路には近づくな!一人で歩くんじゃない!」

 

そう先生は俺たちに言い聞かせていた。

 

(終)

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