山道で感じた気配と傷口の治り
これは、友人が体験した不思議な話。
夜中に一人、家へと続く山道を歩いていた。
その時、彼の左腕には包帯が巻かれていた。
数日前に出張先で火傷を負ったのだ。
気分は冴えなかったが、それは必ずしも怪我のせいだけではなかった。
「その夜は、道の雰囲気自体が奇妙だったんです」
そう彼は言う。
何かに見つめられているような、後を付けられているような、そんな気配があった。
途中何度も足を止め振り返ってみたが、辺りには何も動くものはない。
それなのに、いざ歩き始めると背後の此処彼処で怪しい気配が湧く。
気持ち悪く思いながら、足早に家へと急いだ。
無事に家へ辿り着いた時は、心底ホッとしたそうだ。
部屋着に着替えてから包帯を替えようと古い布を解くと、激痛が走った。
痛っ!・・・おかしいな、治りかけて痛みも引いていたのに・・・。
傷口を確認してギョッとした。
火傷で痛んでいた腕の皮膚が、剥かれたように綺麗に失くなっている。
ピンク色の肉が、薄く汁を吹いていた。
不思議なことに、かなりの範囲で皮膚が剥けていたにもかかわらず、傷口の治りは非常に早かったという。
診てもらった医者が不思議がるので、山道で感じた気配の話をしてみた。
「・・・というわけで、あの夜に僕の後を付けてきた何かに、この皮を剥かれたような気がしてならないんですよ。考えると有り得ない話ですけど」
医者はしばらく考え込んだ後、こう言った。
「恐らく狐でしょう。ここいらに棲んでいる輩は、人皮を焼いたのが大好物だと昔から聞ききますし。治りが早いのは、狐なりに気を遣ってくれたのかも」
「何と!僕はあの夜、狐に化かされていたのですか!?」
思わず唖然としたそうだ。
(終)