「あのね、入れておくれって言うの」
これは、家族で山のペンションに泊まった時の話。
夜中、先に休ませたはずの娘が寝室から出てきた。
「どうしたの?おトイレ?」
そう私が尋ねると、まだ幼かった娘は困った顔で答えた。
「あのね、入れておくれって言うの。でも、私じゃ窓の鍵に手が届かないの」
娘が何を言っているのかすぐにはわからなかったけれど、その内容を理解するや否や、「誰がそんなこと言ってるの!?」と聞き返した。
「えっと、角のあるお姉さんが窓を叩いてね、そう言うの」
慌てて夫を呼ぶと、二人一緒に寝室へ入り、窓を見た。
何か“白い影”が一瞬だけ見えたが、あっという間に見えなくなる。
夫は私に娘を預け、一人で外を確認しに行った。
やがて首を傾げながら戻ってくる。
「誰の姿も足跡も見つからないよ。建物の周りは砂利が敷いてあるから、逃げたところで痕跡が残るはずなんだけどなぁ。そういえば、足音なんかもまったく聞こえなかったなぁ」
その後は何も怪しいことは起こらなかったけれど…。
ただ、そこを後にするまで、どうにも落ち着かなかった。
(終)
スポンサーリンク