歌と私
私は数年前の事故で、
障害を持った。
知り合いも見舞いに来て
励ましてくれたが、
一ヶ月ぐらい酷く落ち込んだ。
そんな私を救ったのは歌だった。
歌は私の唯一の得意なものであり、
生き甲斐だった。
それからは毎日歌った。
朝も昼も夜も、
毎日毎日。
だって私の得意分野だもの!
色んな人に歌って聞かせた。
友だちは泣いた。
お母さんも泣いた。
「元気そうで良かった・・・」
だって!
少し照れる。
その後、単身赴任していた
お父さんにも聞かせてあげた。
すると、
お父さんの顔が歪んだ。
そしてお父さんは走って
部屋を出て行った。
ドアは勢いよく閉めた、
と思う。
(終)
解説
これには2つの説がある。
1、
「ドアは勢いよく閉めた、
と思う」
のくだりから、
語り手の女性は事故で耳が
聞こえなくなったという説。
2、
お父さんは単身赴任しているのに、
どうして「顔が歪んだ」のを
見ることが出来たのか?
また、「元気そうで良かった・・・」
と母が言っていることから、
女性はもう死んでいて、
そのことに気づかないまま
母や父の元へ現れ歌ったという説。
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