放課後に心霊写真を撮る遊びが流行った時 1/2
これは、
俺が小学5年生だった時の話だ。
当時、俺の通っていた学校では、
心霊写真を撮影するのが流行っており、
俺のクラスの何人かも、
使い捨てカメラを持って、
放課後の校舎で幽霊が出そうなところを
撮影しながら探索する遊びをよくしていた。
もちろん何処を撮っても
心霊写真なんか撮れないし、
放課後の校舎をいつまでもウロウロしていたって
先生に怒られるだけなので、
単に怖いもの見たさというか、
スリルを友達と共有したかったのだと思う。
そんな遊びも時が経つにつれて
自然と廃れていったのだが、
俺と2歳年下だった弟(同じ学校の3年)は、
写真撮影の遊びを続けていた。
そんなある日、
いつものように放課後の校内を
走り回っていると、
体育館の方から『ゴッ、トン!』と、
何かが床に落ちて反響する音が聞えた。
誰かがバスケでもやってるのかと
見に行ってみると、
誰もいない。
しかし、
体育館のステージの前に
緑色の一輪車が一台、
放置されていた。
俺も弟も、
誰かが遊んだまま片付け
なかったのだろうと思った。
一輪車で遊んで放置したまま
帰る生徒も結構いたし、
特に不思議な光景ではなかった。
ところが、
その一輪車はつい今しがた
乗り捨てたかのように、
車輪が惰力で僅かに回っていた。
おかしいなと思って、
いつも放課後に心霊写真遊びを一緒に
していた友達のTの仕業ではないかと、
ステージの裏に向かって
名前を呼んでみたが、
応答はない。
弟が、
誰か隠れていないか調べてみたが、
ステージの裏はおろか、
体育館の倉庫にも誰もいなかった。
放課後なので、
体育館と校舎を繋ぐ通路以外は
扉に全て鍵がかかっていたし、
俺は急に気味が悪くなって、
弟と校舎に戻った。
俺が走り出すと弟もビビりだして、
二人でランドセルを取りに
5年生の教室へ走ったのだが、
便所に行きたくなってしまった俺は、
教室の前にあるトイレに
弟を連れて入った。
弟は小便がしたいわけではなかったが、
一人では怖いので用が済むまで
俺の後ろに立たせた。
その時、
突然に大の個室の中で
『ゴッ、トン!』
という大きな音がし、
もう完全に飛び上がるくらい
二人で驚いて、
弟は真っ先にトイレから
逃げ出してしまった。
今でも覚えているが、
俺は気が動転して、
小便の途中だったにも関わらず、
ズボンを上げてトイレを出ると、
ランドセルを引っ掴んで、
風のように走って帰った。
そんな怖い思いをしても、
子供ってのは不思議なもので、
一晩経って翌日になると、
ケロっと何事もなかったように
登校出来る。
俺も弟も、
朝になると昨日の恐怖よりも、
放課後にあの不思議な現象の正体を
解明してやろうと思っていた。
だが、教室に入ってみると、
クラスの連中の雰囲気がおかしい。
いつもなら朝からギャーギャー
騒ぎ立てているのに、
ほとんどが着席して
こじんまりとしている。
原因は黒板にあった。
『昨日、放課後に一輪車で遊んで
片付けなかった人がいます。
遊んで片付けなかった人は、
休み時間に○○先生に~』
とか何とかという内容が
書かれていたのを覚えている。
担任は女の先生だったが、
清掃などにはうるさい先生だったので、
朝からクラスが辛気臭い雰囲気だったわけ。
俺は身に覚えがあるというか、
昨日の放課後に体育館に放置された
一輪車を見ているので、
絶対あの一輪車のことだと思って、
自分には関係ないけどビクビクしていた。
でも問題は、
なんであんな体育館に放置された
一台の一輪車くらいで、
こんな風に黒板に書き出されなきゃ
いけないのか、
ということだった。
一輪車を片付けないで放置する生徒は、
実際に多かった。
5年生だけでなく、
1年~6年生まで遊具を片付けない奴らは
結構いた。
それなのにこのピリピリムード。
やがて1時間目になり、
担任が教室に入って来ると
いつものように挨拶済ませて、
授業を始める前に黒板の連絡内容
についての話が始った。
「うちのクラスの前に
お手洗いがありますね。
そこの男子トイレの個室の中に
昨日の放課後、
1年生用(緑)の一輪車が
置いてありました」
その言葉を聞いた時、
俺は予想に反する見当違いに、
首を傾げた。
いや、首を傾げかけた俺は、
ぷつぷつと鳥肌を立てた。
「昨日のことだ!」
教室前のトイレに駆け込んだ俺と弟は、
個室で大きな物音を聞いている。
あれは、
個室の中で一輪車が倒れた音・・・
だったのではないのか、
と俺は理由もなく恐ろしくなってきた。