別荘地からの電話
「それにしても、
あなたS君と付き合い始めたってだけで
他の女を敵に回してるっていうのに・・・
ちょっとは自覚持ちなさいよ」
「あはは、
この連休は彼と別荘地で二人きりなんて、
皆にバレたら殺されるかもね」
「まったくもう・・・」
「しかも避暑地だから、
夏が過ぎたらもう誰もいないの!
いいよぉ、
二人だけの世界って感じ?」
「もうシーズンオフみたいね、
うるさいくらい鈴虫が鳴いてるのが
聞こえてるわよ」
「あ、聞こえる?
そうなのよ、
そっちはまだでしょ?
ここはもう秋よ」
「まぁね・・・
ところで、変な人とか熊とか
気をつけなさいよ」
「大丈夫だって、
携帯も通じるし」
「あ、ちょっとまって背中かゆい・・・
ごめん、片手包丁でふさがってるの」
「ごめん、これから料理
するところだった?」
「まぁそんなところかな。
いいのいいの、
もう半分は済んだから」
「忙しい時に電話しちゃって
ごめんね。
なんか彼の帰りが遅いから
寂しくなっちゃって」
「いいのいいの、
じゃまた後でね」
(終)
解説
「他の女を敵に回してるっていうのに・・・」
これは自分のこと。
彼女はこれから、
S君と付き合っている友人を
殺しに行くところなのだ。
「鈴虫が鳴いてる」
と言っているが、
鈴虫の声は周波数が高いため
電話では聞こえない。
つまり、
この友人は実際に鈴虫の鳴き声が
聞こえるところ・・・
別荘の近くから電話をかけてきている。
さらに「半分済んだ」ということは、
もうS君は殺されている。
「じゃまた後でね」という言葉から、
彼女もこれから殺される。
友人を殺してS君とゴールインするんじゃないのか?!