山中での夜戦で遭遇した珍しい狐
これは、仲間内で楽しむサバイバルゲームでの話。
以前、人家から相当離れた山中で、数回の夜戦を行った。
月明かりがとても明るい、スナイパー好みの夜だった。
数戦終えて小さな空き地で小休止していると、そこいらに居そうな中型犬が現れた。
チガウナ、コレデハナイ
そいつは10メートルくらい距離を置いて近づこうとしないが、菓子等を投げると5メートルくらいまで寄って来るようになった。
やせ細った犬は、よくよく見ると犬ではない『綺麗な狐』と分かったが、「珍しいな」くらいにしか思わなかった。
さあ開戦となり、流れ玉が当たってはと、その狐を追い払ったその時、私を含めた数人がしっかりと見た。
それまでダラリと垂れ下がっていたその狐の尾は、1本や2本ではなく何本もあった。
その狐は小気味良く飛び跳ねながら、細い林道を横切り、林道の山側へ。
その間、二度ほどこちらを振り向いた。
その二度目に、低い声で鳴くというより唸り、声のようなものが聞こえた。
とても低い声だった。
私は『チガウナ』と聞こえたが、他の者は『チガウ』とか、ある者は『コレデハナイ』と聞こえたと、後で分かった。
皆は、誰かが「今の狐・・・おかしい」と言うまで、今自分が見た光景が目の錯覚と思い込んでいた。
そして、俺も俺もと今見た光景が現実と分かり、”即刻撤収”を止める者などいなかった。
話は前後するが、この場所は三週間ほど前に下見に来ていた。
もちろん昼間、といっても早朝に近かったが。
林道脇に車を止めて、仲間と「この辺りなら」と話していると、二台のジムニーが凄い勢いでやってきた。
私の車が邪魔だったので直ぐにどけようとすると、「こんなとこで何しとるんじゃー!」、「さっさとどけんかー!」と、散弾銃を構えたおっさんが降りてきた。
両車の後部には猟犬が何匹も・・・。
ゲーマーなら玩具のエアガンでも一般人(その時は平服)に見せない様に気を遣うのにと思ったが、関わりたくないのでペコペコしながら車を脇にどけると、二台はまた凄い勢いで走り去った。
仲間と「何だ、あいつらは?」等と話していると、遠くで「バンッ」、「バンッ」と散弾銃の音と犬の鳴き声がした。
その時、「ここは夜戦のみだな」ということになった。
そんな出来事もそろそろ忘れかけていた数週間後、私は新聞記事を見て、背筋が凍った。
あの夜以上に怖かった。
その小さな新聞記事には、『狩猟中に仲間を誤射。さらに誤射した加害者が直後に猟銃自殺』とあった。
まさに、あの山でのことだ。
こじつけと言われるかもしれないが、あの狐は仲間か家族を撃たれ、復讐しようと犯人を探していたのではないだろうか。
だから、似たような銃を持つ私たちが犯人かと近づいたのではないか。
もちろん新聞記事の二人があの二人かは分からない。
ただ、二度とあの山には行きたくない。
あの夜、狐をエアガンで撃つような馬鹿が私たちのチームにいなくて本当に良かった。
(終)