山に家出した少年の話
これは、20年ほど前に新聞記事になり、その後にTVドラマ化もされた実話。
彼は生まれてからずっと家族からいじめられ、まともに食べ物も与えられず、給食で何とか生き延びていたという。
中学生のある日、とうとう我慢が出来なくなり、山に家出してしまう。
とぼとぼと山道を歩いていると、後ろから「ワンワン」という犬の鳴き声が。
それは、家で飼っていたシロだった。
とても咬み切れそうもない綱を切って追いかけてきたのだ。
なぜ家出したことがわかったのか不思議だったが、それからはシロと山を転々とする生活が始まった。
食べ物はシロとの共同作業で、ウサギやヘビ、ネズミなど、何でも獲って食べた。
獲れたものは全てシロと分け合って食べた。
そんなある日、シロがいきなり体当たりをしてきた。
訝(いぶか)しりながら「何すんだよ!」と言うと、元々居たところに巨石が落ちてきた。
シロは危険を察知して助けてくれたのだ。
ある時は高熱が出て一歩も動けなくなった。
シロは破れたシャツを加え、何度も何度も川へ行って濡らしてきては届けてくれたおかげで、やっと熱が引き助かったこともあった。
山で暮らし始めて何年か後のある日の夜、それまで一度も甘えたことがなかったシロが急に「クーン」と鳴いて甘えてきた。
ピッタリと寄り添って離れようとしない。
次の日に起きてみると、シロが息絶えていた。
シロは最期を悟り、最後に甘えてきたのだ。
一人泣いた。
何十年も過ぎ、関東から始まった山の中暮らしは東北南部にまで移動していた。
その頃は釣り名人として、ごく一部の渓流釣り人には知られるような存在になっていた。
たまには街中にも下りていた。
そしてある日、自動販売機のお金を盗んだ容疑で逮捕され、そこで初めて何十年間も山中生活をしていたことがわかり、新聞にも掲載された。
それからは釣りを通じて知り合った後見者の元に身を寄せていたが、その後見人の家からも家出して、一度は山に帰り、今は別の施設で暮らして働いている。
社会的には死亡者扱いになっていたが、後見人を得て、そして社会復帰した。
邪険に扱った親戚は既に死亡しており、その遺族は「家出したヤツのことはよく知らない」という。
しかし今もなお、何十年前に出た故郷のことは話したがらない。
※洞窟おじさん|参考
2015年にNHKでドラマ化されている。(Wikipediaより)
(終)