しばらく実家には近づきたくないワケ
これは、婆ちゃんが体調を崩して入院した時の話。
婆ちゃんと一緒に暮らしている俺の両親は共働きなので、付き添いのために俺が急遽帰省した。
ただ、ボケが急激に進行して幼児のようになった婆ちゃんの姿は、正直ショックで見てられなかった。
それに、久々に帰った実家は家中が埃りだらけで・・・。
家の掃除や、仏壇や神棚に手を合わすのはもっぱら婆ちゃんだけだったので、足腰が弱ってからは放りっぱなしになっていたのだろう。
俺は自分が居れるうちに・・・と思い立ち、家中を拭いたり掃いたり、数年ぶりだろう御供え物をして手を合わせた。
その晩、母が突然寝ている俺のところにやってきて世間話を始めたかと思うと、「そういえばお婆ちゃん、ボケる前に山の祠をおまつりせんと言うてしきりに気にしとったわ」と言う。
俺はこの家で生まれ育ったが、そんな祠があることは初耳だった。
詳しく聞くと、なんでもウチの所有する山の奥に小さな祠のようなものがあって、15年以上前に死んだ祖父の代を最後に祭祀はしていないとのこと。
俺の掃除に気づいてもおらず、神仏に全く興味の無い母がなぜ突然そんな話をしたのか、訝しみつつ就寝した。
やはりそれだけでは終わらなかった。
明け方、寝静まって誰もいるはずもない階下の仏間から、「チーンンン・・・チーンンン・・・」という音と共に、掃除の際にどこを探しても無かった線香の匂いが。
空耳か?と思っていたところ、突然腰に衝撃が走った。
今まで感じたことのない激痛。
その時に脳裏を掠めたのは、「そういやウチの人間いつから墓参りしてないんだろう?」と。
朝になってから俺は、場所のわからない山の祠があると思しき方角に、米と水と酒を置いて手を合わせ、棒を杖がわりにしながら痛む腰を引きずって墓参りをした。
すると、不思議なことにその場ですっと腰痛が治まった。
あれだけの激痛だったのに有り得ない。
さらに有り得ないことが起こる。
次の日、入院している婆ちゃんの意識レベルが嘘のようにはっきりしていた。
その後、婆ちゃんは想定外の早さで退院し、お役御免になった俺は実家から急いで逃げ帰ってきた。
障りにしろご加護にしろ、しばらく実家には近づきたくない。
(終)