富士の樹海で憑かれた女霊
友人の話。
6年前くらいの話なんだが、
Mは心霊スポットマニアで、
各地の心霊スポットに行っていた。
彼自身、霊感は多少あるが、
極稀に見えるくらいだった。
その年の夏、
Mとその友人らは
樹海に行った。
Mは多少嫌な雰囲気を
感じてはいたものの、
ここは東日本最大の心霊スポット、
富士の樹海。
それゆえ、もっと凄い気配が
するのかと思っていたこともあり、
期待ハズレな感もあった。
樹海に続く遊歩道を、
懐中電灯の明かりを頼りに
歩いたが、
何も起こることはなく。
皆、暗闇の恐怖を味わう程度で、
帰路に向かった。
帰りの車の中では
テレビの話題など、
たわいもない話題で
盛り上がっていたが、
Mだけは憂鬱そうな
顔をしていた。
他の連中は
Mの様子に気づき、
「大丈夫か?具合でも悪いんか?」
と、声をかけた。
「樹海に入る時の嫌な感じが
まだ抜けないんだ」
と、Mは言った。
「気のしすぎじゃねぇの?」
と、もう一人が言い、
話題はまた他愛のない話に戻った。
高速を地元のICで下り、
近くのコンビニで飲み物を買おう
ということになった。
車を降り、
皆で深夜の人気のない
店内に入った。
一行の姿が、
大きいガラス窓に映った。
その時、
Mは違和感を覚えた。
一緒に来ていた友人Iが、
少し大きく見えたのだ。
Iは、他の連中と背丈は
対して変わらないはず。
しかし、窓に反射しているIは、
他の友人より少し大きく見える。
窓から目を逸らし、
飲みものを探すIを見た。
いや、決して大きく見えない。
Mはもう一度窓ガラスを見た。
あることに気づく。
Iの体の周りに、
黒い影が付いている。
まるで、
Iを縁取りするように。
いや、違う。
後ろに一回り大きな人が
いるように見えた。
もう一度、Iを見る。
近くにそんな大きな人は
いなかった。
やっぱり違和感は
間違いじゃない。
何かがIに
憑いて来てしまっている!
Mには多少の霊感はあるが、
それを取り払うようなことは出来ない。
「Iには悪いが黙っておこう。
俺の所には来ないだろうし」
Iには霊感などはなく、
黙っていれば
気づきもしないだろう。
Mはそう結論を出し、
黙ったままにしていた。
その後、
数日、数ヶ月経っても
Iには何も起こらず、
M自身もそのことを
忘れかけていた。
しばらくは心霊スポットも行かず、
大学の夏休みに実家に帰ったM。
彼の家は母子家庭で、
自分を育てた母に、
大学の様子などを伝えていた。
その夜、母と布団を並べ、
眠りにつこうとしていた。
その時、
急に激しい金縛りが
Mを襲った。
重たい空気が体を押し潰すように
Mに重くのしかかる。
「母さん!母さん!」
隣に寝ている母に
助けを求める。
しかし、母には届かない。
すやすや寝ている。
いい気なもんだ。
どうやらMだけが
金縛りに掛かっているようだ。
ふと庭の方に気配を感じ、
窓を見る。
「!!!!!」
そこでMは恐怖を感じた。
窓の左上から、
女が顔を覗かせていた。
頭を下に向け、
無表情なその顔の目は、
動けずに恐怖で引きつった顔の
Mを見ている。
「うわ!!」
Mが叫んだ瞬間、
その顔は窓の左上から右上に
凄い速さでスライドして、
そのまま消えて行った。
Mは恐怖に勝てず、
そのまま意識を失った。
後日、Mは私にこう言った。
「あのコンビニの黒い影、
女だったんだよ・・・。
あの時、Iじゃなくて
俺に憑いて来てたんだな。
まだ時々見るよ。
もう慣れたけどな」
(終)