ボロボロの自転車を漕ぐ男の子
これは紛れもなく本当の出来事。
僕が中学時代、
バスケ部の部員達で
肝試しをしに行った時の話。
季節は8月の終わりで、
残暑が厳しく、
まだセミも鳴いていた。
夕方に裏山の○○公園に
現地集合し、
男子7名と女子6名が集まり、
早くも活気づき始めた。
公園内は広く、
道に沿って大きな川も流れてる。
犬の散歩やマラソンに、
もってこいの場所だ。
辺りも暗くなって
そろそろ始めようという時に、
みんなが揉め始めた。
まだ肝試しの内容を
決めていなかったらしい。
だらだら立ち話をしてると、
一人の男子が
近くの自転車置き場から、
チェーンの外れた
ボロいチャリを持ってきた。
「これまだ乗れるから使おうぜ」
「こんなんで何すんの?」
と冗談半分に話が進み、
散歩コースから離れたデコボコ道を、
これに乗って通るという話になった。
「でもこれ肝試しじゃなくない?」
「いやある意味スリルあって面白いよ」
と、みんな完全にふざけてた。
「じゃあB男、
お前ゴール地点で待つ役ね」
僕は先輩に言われて、
渋々真っ暗な雑木林に入った。
数分経っても誰も来ないので、
暇でしょうがない。
蒸し暑いわ、
蚊はいるわ、
のどが渇くわ、
最悪だ。
さらに5分くらいしても、
誰も来ない。
来る気配すら無い。
異様な静けさと、
言い知れぬ不安で、
急に背筋が寒くなってきた。
僕の不安が高まり、
皆の待つスタート地点に
戻ろうと決心した。
ようやく道の向こうに、
自転車が近づいて来るのが見えた。
それは確かに、先ほどの
ボロいチャリに間違いなかった。
しかし、妙に左右にユラユラと
揺れながら走って来る。
僕は近くの木に体を押し付けると、
目をこらして自転車を見つめた。
乗っている人物の形がおかしい。
僕はすぐに気が付いた。
左腕が無いのだ。
自転車に乗ってこちらに
近づいて来るのは、
僕の知っている部員達の
誰でもなかった。
それは、同年代の男の子と
思えるのだが、
左腕が肩から無く、
その袖口は破れ、
ヒラヒラと揺れていた。
そして首は
左後方に向かって捻れ、
無理矢理に捻られたような首が、
変に伸びていたのだ。
僕にはまるで、
車に轢かれた死体が
無理をして自転車を漕いでいる、
ように見えた。
自転車はキコキコと
嫌な音を立てながら、
僕に向かって近づいて来ている。
(終)