議員候補者からの差し入れ
先の選挙特番を見ていて、
思い出したことがあります。
当時、私は
実家住まいの中学生。
町は議会選挙の真っ盛りでした。
その夜のことは
隣家に救急車が来たこともあり、
鮮明に覚えています。
私は小学生の弟とこたつに入り、
母がパートから戻るのを待っていました。
こたつの上には、
候補者の一人が持参した
包みがあります。
手に持った感じは
ウイスキーだったと思います。
本当はいけないことなんですが、
その時はちょっと
誇らしかったことを覚えています。
「すいませーん。
呉羽吉人(仮名)でーす」
先ほどの候補者です。
父母の帰りは遅いと伝えて
10分も経っていません。
玄関に出てみると、
田舎議員特有のテンションは
どこへやら、
妙に萎れています。
聞けば、差し入れのランクを
間違えたとのこと。
色々と決まりがあるらしく、
ウイスキーは回収され、
代わりに乾物の詰め合わせ
みたいなものを渡されました。
私と弟は、
ションボリしてしまいました。
うちの父は
乾物ランクの人なんだ。
こたつの上に置いた軽い包みが、
そう言っているように思えたのです。
パートから戻った母に
そのことを告げると、
あからさまに嫌な顔をされました。
揚げ句には、
言って良いことと悪いことがあると、
頭を小突かれる始末。
叱られる覚えのない私は、
弟を味方につけて
母に詰め寄りました。
すると、母の顔色が
みるみる変わっていったのです。
母はこう言いました。
呉羽吉人は、
公示前に死んでいる。
表向きは病死とされているが、
実は議会の派閥から干され、
談合グループからも
干された末の自殺だったらしい。
「お、お母さんこそ、
嘘言っておどかさないでよ。
だって、ほら・・・」
こたつの上を指差した私は
絶句しました。
包みは消えうせ、
四つ折りに畳まれた選挙公報が
置かれていたのです。
そんなもの、
出した覚えはありません。
弟はついに
泣き出してしまいました。
この夜のことは、
今でも鮮明に覚えています。
隣家のお酒好きなご主人は、
胃から大量の出血をして
亡くなったのです。
(終)