夜の川原で泳いでいたら 1/2
これは、
数年前に友人(A)から
聞いた話です。
その当時、
Aは高校2年生。
そして、
それは夏休みの
出来事だった。
夜10時頃にAの携帯が
突然鳴った。
Aの近所に住む、
中学校からの友人Bからだ。
Aはこんな夜中に何だろうと思い、
電話を取ってみると、
B「今から川原で花火やりに
行かへん?」
Bは普段から何かとAを誘って
ちょくちょく遊んでいる仲だった為、
いつものノリで
その誘いに乗って、
10時半にいつもの川原で
落ち合うことにした。
Aの住んでいる町は、
コンビニも一軒しか無い
ほどの田舎だ。
落ち合う場所となっている川原も、
山道を少し進んだ奥にある、
地元の人間しか知らないような
場所だった。
そしてしばらくすると、
Aは川原に着いた。
すでにBは花火を開け、
待っていた。
Bの持ってきた花火は多くなく、
すぐに使い切ってしまった。
もうやることも無くなったが、
まだ帰る気のなさそうなBは、
B「せっかく川に来たんやし、
泳ぐか!」
と言って、
トランクス姿になって
川に飛び込んだ。
Bは初めから泳ぐつもり
だったらしく、
バスタオルを二枚、
用意して来ていた。
地元の人間にとっては、
人っ気の無い川原で泳ぐ時は
見られる事もないので、
水着など要らず、
タオル一枚あれば
十分だそうだ。
Aも、夜に川で泳ぐのは
初めてで、
調子に乗って泳ぎ出した。
川の中は昼間と違って
真っ暗で、
まるで墨の中を泳いでいる
ような感じだった。
そのため、Aは早々に
川から上がろうとした。
・・・その時!
突然、Aの足が何かに
引っ張られた。
AはBの仕業だと思った。
しかし、もがきながらも
川原を見てみると、
Bがすでに川から上がり、
立っているではないか。
じゃあ、
足を引っ張っているのは・・・。
一瞬、背筋がゾクっとし、
月明かりによってかろうじて見える、
足回りを確認した。
・・・何もいない。
そして、
引っ張られている感じは
治まった。
Aはすぐさま川原に上がり、
Bにすぐにここを去ろう、
と告げようとした。
しかし、
Aは自分の目を疑った。
Bの顔のすぐ後ろに、
鬼の形相をした顔が
浮かんで見えた。
A「早く逃げろ!」
突然の事に呆気にとられている
Bの手を引っ張りながら、
その場所を去った。
逃げる最中、Bに簡単に
そのことを告げた。
すると、
Bがもうすぐ山道を抜ける
というところで、
突然叫び出した。
B「おい、なんだあれ!?」
A達が走っていく方向に、
黒い塊が動いていた。
大きさは1メートル弱で、
人間とも動物とも言えない
ような物体があった。
そして、
その物体はナメクジのように
這うようにして動き、
A達の行く手を阻むような
感じだった。
Bは驚き、
来た道を戻っていった。
そして、
Aもそれに続こうと思ったが、
出来なかった。
Bが走っていた道を
見てみると、
木の間に無数に伸びる手が
手招きをしていた。
その光景は異様で、
月明かりが無く、
前方の黒い物体の姿は
見えないのに、
無数に広がる手だけは、
発光体の様にうっすら
見ることが出来た。
AはすぐさまBを呼び戻そうと
したものの、
Bには手が見えていないらしく、
そのまま暗闇に消えていった。
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