もてなしされた町のお祭りに参加したら 4/4

神輿

 

近くの山には

鬼の一家が住んでいて、

 

それが時々、

 

麓に下りて来ては

悪さをして逃げていく。

 

一番悪いのは

父親であろう大鬼で、

 

人を犯し、殺し、食み、

これを至上の楽しみとしていた。

 

あとは四匹の小さな鬼で

子供のようだったが、

 

父親と同じように

悪さをしていたという。

 

そんな事を繰り返していたらしい。

 

その町(当時は村)

結構な被害が出て、

 

襲われて命を落とすものや、

さらわれていく事があったらしい。

 

仲間意識の強い、

村の中でのこと。

 

どうにかしようと村の中で

思案し合った結果・・・

 

鬼一家をもてなす事に

決めたらしい。

 

鬼が来たら村人みんなで

ニコニコしながらお出迎えをして、

 

考えられる全てのもてなしを

したらしい。

 

そんなことをしたら、

 

鬼が一家で居つくかも知れない

って考えるだろ?

 

最初は警戒していた鬼も

段々と慣れていき、

 

結局、一家で居ついてしまった。

 

それでもみんなニコニコ。

 

ある日、いつものように

もてなしていると、

 

大鬼は酔っ払って

眠たそうにしている。

 

それを察したある村民が

大きな戸板を持ってきて、

 

「この上に横になって下さい。

私どもが寝床まで運びましょう」

 

と言った。

 

その申し出に

大鬼も気を良くし、

 

戸板の上に横になって

運んでもらう事にした。

 

そしてそのまま、

 

大きな寝息を立てて、

眠ってしまった。

 

ふと、

鬼は目を覚ましたが、

 

体が動かない。

 

見ると、

 

体が鎖でグルグル巻きにされ、

腕を動かすことすらままならない。

 

騙されたと気づき子鬼を呼ぶが、

返事が無い。

 

大鬼の体は戸板に乗せられていたが、

少しずつ動いている。

 

山を登っているようだった。

 

動かない体を無理して

戸板の下を覗き込むと、

 

大鬼の体を持ち上げているのは、

四匹の子鬼だった。

 

その四匹全てが

大怪我を負っている。

 

大鬼の寝ている間に、

村民にやられたのであろう。

 

片手を無くしている子鬼もいれば、

足がもげかかっている子鬼もいた。

 

四匹に共通しているのは、

 

四匹とも両目を潰されている

という事だった。

 

その子鬼たちが、

 

大鬼の乗った戸板を

担いでいるのである。

 

子鬼を村民の一人が、

 

「鬼さんこちら、

手の鳴る方へ」

 

と手を叩いて導いている。

 

周りには人、人、人。

 

その全ての人の手には、

 

それぞれ鍬(くわ)や鋤(すき)

竹で作った鎗(やり)などがあり、

 

一番近くにいる村民は、

 

たまに子鬼を後ろから、

 

手に持った得物で叩いて

喜んでいる。

 

それが山を登っていく。

 

子鬼が倒れそうになると

村民が得物で叩き起こし、

 

また担がせて歩かせる。

 

そのうち一匹の子鬼が

歩けなくなった。

 

足がもげかかっていた子鬼だ。

 

村民は容赦なく得物で打ち据え、

殺してしまった。

 

その死体を戸板の上にいる

大鬼に乗せると、

 

大鬼は大きな声で吼えたという。

 

それでも村民は気にしない様子で

山を登らせる。

 

少し進んだところで、

また子鬼が一匹殺された。

 

子鬼二匹では戸板を担ぐ事が

出来なかったので、

 

村民の若い奴が手伝ってやった。

 

数時間かけて山頂に上ったところで、

残りの子鬼二匹が殺された。

 

それを見た大鬼は、

怒り狂った声を上げたが、

 

村民は黙々と薪を拾っている。

 

大鬼の上に

死んだ子鬼の死体を重ね、

 

その上に薪を山のように積み上げて、

火を点けた。

 

大鬼は死ぬまで吼え続け、

 

完全に息絶えるまで

数時間かかったという。

 

その間、

村民は宴を開いていたとか。

 

そんな事があり、

 

鬼退治をした村として

後世の村人に伝えるため、

 

毎年その時期になると

お祭りをする事にしたらしい。

 

鬼役が四人ほど(ほとんどは子供)

重い神輿を担ぎ、

 

それを村民全員でからかいながら

練り歩くというもので、

 

昔は『鬼祭り』と

呼ばれていたらしい。

 

しかし、

 

村内で鬼役をするのを嫌がる

村民が増えたため、

 

たまたまその時期に来た旅人とかに

無理矢理させることにしたらしい。

 

鬼退治の時と同じように、

 

最初はもてなしておいて、

祭りがあると言って参加させ、

 

無理矢理に神輿を担がせる。

 

近年は「鬼祭り」を「鬼さん祭り」

と改めてはいるが、

 

余所者が行くと必ず神輿を担がされて

ひどい目に合うので、

 

知ってる人はこの時期は誰も

近づかないようにしてるという。

 

それを聞いて俺たちは身震いした。

 

あの時言ってた「おにいさん」は、

お兄さんじゃなくって『鬼さん』?

 

そう考えていたら

Nのお父さんがぽつりと、

 

「ものの本によると、

 

山に住んでいたのは

鬼の一家じゃなく、

 

山賊の一家らしいんだよな」

 

って。

 

じゃぁ、殺されたのは

五匹の鬼じゃなくて五人の・・・

 

それからしばらくは外出出来ず、

家の中で少しの物音にも震えていた。

 

(終)

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