お供え花が絶えない縁起の悪い橋 1/3

お供え花

 

高校生時代、

陸上部で短距離走をやっていた俺は、

 

夜に学校が閉まってからも練習をする、

熱心なスポーツマンであった。

 

といっても、

 

校内に残って練習するわけではなく、

自宅周辺の道路を走るのである。

 

中でも練習に好都合な場所は、

 

100メートルほどの長さのある橋の

歩道部分であった。

 

住宅地では不可能な、

 

100メートルダッシュの練習が

思いっきり出来たのだ。

 

だがその橋には、

縁起の悪い問題があった。

 

自殺である。

 

河を渡るために30メートルほどの

高さがあるその橋は、

 

街灯も少なく、

 

投身自殺者にとっても、

絶好のポイントだった。

 

実際、飛び降りポイントらしき

橋の中間点には、

 

花が添えられていることが多かった。

 

投身自殺者があの世へ向かう速度よりも

速く突っ走ることに情熱を注いでいた俺は、

 

そんなことはお構いなしに、

橋を練習に使っていた。

 

むしろ自殺が起こらないよう、

パトロールしてやる!

 

くらいの意気込みであった。

 

ところがある日、

奇妙な光景に出くわした。

 

白いワンピースを着た少女が、

夜の橋の歩道を疾走していたのである。

 

(ユーレイ!?でも脚あるし・・・)

 

俺が訝しげに遠くから眺めていると、

 

少女が走り終わった先には

数人の人影が見えた。

 

四角い機材を担いだ者。

 

槍のような棒をかざした者。

 

照明を持った者。

 

(あぁ!映画か何かの撮影か!)

 

学生らしき団体の映画製作現場だった。

 

しかし、

そいつらの行動が眉唾モノであった。

 

「あれ、ジャマだよね!」

「でも触ったらヤバいって!」

「いーからポイしちゃお♪」

 

そんな旨のことを話していたと思う。

 

メンバーの一人が橋の中間点に歩み寄り、

 

何かを拾い上げたかと思うと、

河へと投げ捨てた。

 

(オイオイ、あの場所って!)

 

辺りが妙な静寂に包まれる・・・

 

年上のグループに文句をつける

勇気もなかった俺は、

 

彼らが立ち去った後、

橋の中間点に行ってみた。

 

案の定、

昨日まであった花が無い。

 

花瓶ごと・・・

 

(何てことしやがったんだ奴等は!)

 

色々な意味で愕然とした。

 

翌日、

 

俺は日頃からのショバ代的な

意味合いも含めて、

 

捨てられた花の代わりに

適当な野花でも置いてやろうと考え、

 

橋へ向かった。

 

「何じゃこりゃっ!!?」

 

橋に到着した瞬間、

思わず声に出した。

 

紫の夕暮れ色に染まった橋の歩道。

 

いつも花が添えられている場所。

 

その場所に、

大量の花束が添えられていた。

 

いや、山盛りに積み上げられていた、

と言った方が正しい表現であろう。

 

大型ゴミ袋2杯分くらいの量だった。

 

おまけにどの花束も茶色く

カラッカラに枯れ果てていたが、

 

それを束ねている真っ白な包み紙が

やけに真新しく、

 

不気味に俺の目に映った。

 

明らかにドライフラワーなどという、

爽やかな類のモノではない・・・

 

(昨夜に花が捨てられ、

憤怒した遺族の異常行為であろうか?)

 

何にしろ恐ろしくなった俺は、

 

集めてきた野花だけはさっとその場に置き、

そそくさとその場を離れた。

 

しばらく歩き、

遠目に橋を振り返る。

 

その時、

異様なモノが目につく。

 

(・・・人の・・・手?)

 

橋の欄干の隙間から歩道に向かって、

何か白っぽい棒状のモノが伸びている。

 

もしあれが人の腕だとしたら、

橋の外側にぶら下がって掴まり、

 

歩道に向かって手を伸ばし、

這い上がろうとしている状態である。

 

自殺未遂の人?

 

・・・いや、

アレは人じゃない・・・!

 

直感であった。

 

そう思って身構えつつ、

目を凝らした次の瞬間!

 

「うぬぅ・・・おぉ~ん・・・」

 

気だるそうな女の声が響き、

 

水にまみれて海草のようになった長髪が

ベッタン!と音を立て、

 

欄干の隙間から歩道にはみ出てきた。

 

(頭も・・・上がってきている・・・

顔が・・・見える!)

 

目を逸らそうとした矢先の一瞬だった。

 

今度は長髪に覆われた、

 

青白い人間の頭部のようなモノが

にゅっとはみ出てきて、

 

俺の置いた野花を手に掴むと、

ガツガツと口に含み、

 

ずりゅり!!

 

手、髪、頭ごと、

橋の裏側へ引きずられるように、

 

一気に引っ込んでいった。

 

欄干の隙間は、

 

どうやっても人間の頭部が

抜けられない幅である。

 

その隙間を青白い頭部が

変形しながらすり抜けていた・・・

 

次の瞬間、

 

俺は校内最速記録を確実に更新する勢いで、

自宅まで突っ走った。

 

(続く)お供え花が絶えない縁起の悪い橋 2/3

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