参加を強制された地元の祭りの所以とは 1/2

鳥居

 

俺の田舎の祭りに関する話。

 

俺は神戸に住んでいるんだけど、

 

子供の頃、

 

親父の実家である島根の漁師町へ

よく遊びに行っていた。

 

9歳の時の夏休みも、

親父の実家で過ごした。

 

そこで友達になったAと遊びまくっていて、

毎日がすごく楽しかった。

 

そんなある日、

Aが神社に行こうって言いだした。

 

しかも、神社の社殿の中に

入ってみようぜって。

 

この神社についてまず説明する。

 

神社は山の上に立っていて、

境内にまず鳥居がある。

 

山から麓までは階段が続き、

麓にも鳥居。

 

鳥居からまっすぐ海に向かうと

すぐに浜に出るのだが、

 

浜辺にも鳥居が立ってる。

 

つまり、境内から海まで、

参道がまっすぐ続いている。

 

ちなみに神明社。

 

※神明社(しんめいしゃ)

中世以降,アマテラスオオミカミあるいは伊勢の内・外宮の神を祀った全国各地にある神社。神明宮ともいう。

 

話を戻すと、

 

俺はAについて行って

麓の鳥居の前まで来たんだけど、

 

神様の罰が怖かった。

 

それに、

 

なんだか妙な胸騒ぎというか

嫌な感じがしていたから、

 

行かないって言った。

 

Aにはこの弱虫とか散々言われて、

しゃくだから随分迷ったんだけど、

 

やっぱり俺は行かなかった。

 

20分ほど待っていたらAは戻ってきて、

 

「つまんなかった。

 

社の中にはなんもないし、

鏡があるだけ」

 

と言っていた。

 

なんだ、そんなものか、

と俺はほっとした。

 

次の日にはAから弱虫呼ばわり

されたのもケロリと忘れて、

 

やっぱりAと遊びまくっていた。

 

楽しい夏休みもいずれ終わる。

 

そして家に帰る時、

 

Aは見送ってくれて、

再来を約束した。

 

「またな、来年も絶対来いよ」

 

「おう。約束する」

 

次の年の夏休みも島根に来た。

 

俺は御馳走されたスイカを食べながら、

 

「明日はAと遊びたい」

 

と言ったら、

ばあさんと叔父さんの顔が急に曇った。

 

(じいさんはずっと前に亡くなっている)

 

 

「あのなあ、

 

お前はA君と仲が良かったから

黙ってたんだけど、

 

実はA君は死んだんだ」

 

「えっ?」

 

「夏休みが終わって3日程してかな、

海で溺れちまって・・・」

 

俺はショックだった。

 

昨年の事を思い出して、

もしかしたら神社の罰かもと思ったけど、

 

まさか社殿に入っただけで

神様が祟り殺すはずはないよな・・・

 

と思い直した。

 

少し時が流れて、

 

俺が大学生の頃、

親父が亡くなった。

 

親父が亡くなった年の12月初旬に、

叔父さんから電話があった。

 

大晦日から元旦にかけて行う、

 

親父の地元の祭りに参加しろ、

とのことだった。

 

「おっちゃん、

俺、神戸なんだけど。

 

交通費もかかるし、

参加しなくてもいいでしょ?」

 

「馬鹿!

 

お前、兄貴が亡くなったから、

お前が本家の当主だぞ。

 

○○(俺の名字)の本家が

祭りに出ないなんて、

 

絶対に駄目だ。

 

兄貴も毎年参加して、

元旦に神戸へUターンしてただろ」

 

「おかげでお袋は、

 

その祭り、

本当に参加しなきゃいけないの?!

 

って毎年ぷりぷりしてだけどね」

 

「ああ、言い訳はいいから」

 

と言われて、

渋々祭りに参加させれる事になった。

 

当日、大晦日の20時に着くと、

叔父さんがイライラして待っていた。

 

「遅せえぞ!

19時には着くって言っただろ!」

 

「ごめん、ごめん。

松江で鯛飯食ってたから。

 

でも祭りは21時からだから、

十分に間に合うでしょ」

 

「馬鹿、潔斎する時間を考えろ」

 

※潔斎(けっさい)

法会・写経・神事などの前に、酒肉の飲食その他の行為を慎み、沐浴(もくよく)などして心身を清めること。物忌み。

 

俺は潔斎と言われて驚いた。

 

そんなに本格的な神事なのか?

 

俺は慌ただしく風呂場で潔斎して、

 

親父のお古の家紋入り羽織袴を着せられ、

祭りの会場の浜まで走って向かった。

 

浜には、

やはり羽織袴の人達がいっぱいいる。

 

この祭りは女人禁制どころか、

 

各々の家の家長しか、

参加が認められていないものらしい。

 

時間が来たら、

 

神主さんが海に向かって祝詞を唱え、

神様をお迎えする。

 

後は参道を通って

境内まで神主さんを先頭に、

 

松明に照らされてぞろぞろと行列。

 

神様を社殿に鎮座させた後は、

能や神楽等が催されて、

 

飲めや踊れやの大騒ぎで一晩を過ごす。

 

飲みまくるのは神人共食神事か?

 

※神人共食(しんじんきょうしょく)

神を祀り、神と食事を共にすることにより神の力を我が身に取り込み、自分のものにしようとすること。

 

酒を飲んで良い気分になって

ふらふらしてきた頃、

 

社殿をぼーと見ていたら、

なんだかおかしい事に気付いた。

 

注連縄なんだけど、

左が本、右が末になっている。

 

注連縄

(一般の神社と異なる。左綯い)

 

つまり、

逆に付けられていた。

 

なんだこりゃ、と思いつつも、

酔っていたので余り深く考えなかった。

 

次の日の朝、

 

なんとなく気になって、

叔父さんに注連縄の事を尋ねてみた。

 

「ねえ、神社なんだけどさ。

注連縄、あれ逆じゃない?」

 

「なに?!

 

お前、そんな事も知らずに

祭りに参加してたのか」

 

「だって、

 

親父も教えてくれる前に

死んじゃったし、

 

おっちゃんも教えてくれてないでしょ」

 

「そうか・・・、すまんな。

じゃあ、きちんと説明しておくか」

 

「頼むよ」

 

そうしてこの地に伝わる話を、

叔父さんが一から説明してくれた。

 

(続く)参加を強制された地元の祭りの所以とは 2/2

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