車のサイドミラーに映る女の幽霊 1/2

サイドミラー

 

仕事場から自宅まで車で一時間半。

 

途中ショートカットで山道を通れば

20分早く帰宅できるので、

 

毎日そのルートで帰っていたが、

今はその道は通らないようにしている。

 

三ヶ月ぐらい前の深夜1時ごろ。

 

帰宅を急ぎ、

その山道を走っていた時だ。

 

ふいにチリーンと鈴の音がした。

 

「ああ、キーホルダーの鈴かぁ」

 

何気にそう思って気が付いた。

 

私のキーホルダーには鈴はない。

 

車のキーは単独であるので、

他のキーと擦り合って音が出ることもない。

 

それでもチリンチリーンと音が続くので、

神経をとがらせて音をたどると、

 

誰も乗っていない助手席あたりから

聞こえているようだった。

 

「音が出るようなもん、

なんか乗っけてたっけ?」

 

そう考えているうち、

急に車内が酒臭くなった。

 

日本酒を飲んで酔っ払ったオヤジが発する、

あのくっさーい臭いだ。

 

私は下戸なので、

酔っ払いの臭いがとにかく苦手なのだ。

 

「うっ・・・くっさ・・・」

 

と思わず呟いたら、

誰もいないはずの助手席から、

 

なんと衣擦れの音と共に、

豪快なゲップが聞こえた。

 

視界の隅には、

助手席に座る影のような輪郭が見える。

 

横を見ないように、

 

ただひたすら前だけを見て

山道を突っ切り、

 

国道に出たところのすぐにある

コンビニに飛び込んだ。

 

30分ほど立ち読みして時間を潰し、

気分を落ち着かせ、

 

車の中の嫌な気配が消えたことを確認し、

缶コーヒーを買って無事に帰宅した。

 

それから一週間ほど経った頃、

また仕事で遅くなった。

 

ずっとあの山道は避けていたのだが、

 

ぼーっとしていて気が付くと、

山道に向かう道を走っていた。

 

「うわっ、やっべー」

 

と思ったが、

引き返すのもメンドクサイし、

 

そう何度も立て続けに

怖い思いもしないだろうと、

 

高を括って山道を通ることにした。

 

ゲップがもし聞こえても聞こえないように、

音楽をガンガンにかけた。

 

鼻歌を歌いながら山道を走っていて、

ふとサイドミラーを見た。

 

サイドミラーの内側の端っこから、

そろりそろりと何かがスライドしてくる。

 

「ん?」とチラチラ見ていたら、

 

ケバイ化粧をした女の顔が、

どアップで出てきた。

 

!!!

 

「なーんだ、私の顔じゃん」

 

瞬間安心したが、

いや、まて・・・

 

サイドミラーに運転している自分の顔なんて、

映るわけがない。

 

もう一度サイドミラーを見直してみる。

 

やっぱりケバイ化粧の女の顔が映っていて、

こっちを見ている。

 

よく見れば、全然別人。

 

別人というより、

私より美人じゃん・・・

 

いや、まてまて。

 

問題はそういうことじゃなくて・・・

 

なんで走る車のサイドミラーに、

人の顔がアップで映っているの?

 

一通り混乱した後、

恐怖がどわっと押し寄せた。

 

またあのコンビニに飛び込んだ。

 

「またですか?」って言われた。

 

絶対もう二度と通らん!と決意し直し、

缶コーヒーを買って帰宅した。

 

そして一昨日。

 

あれだけ気を付けていたのに、

またも山道へ車を向けてしまった。

 

ぼーっと走っていると、

 

ついつい今までの習慣に従って、

その道を選んでしまうらしい。

 

賢明な人間なら引き返すのだろうが、

 

能天気の上にズボラな私は、

引き返すのがメンドクサイ・・・

 

人並みの恐怖心は持ち合わせているので、

一応は迷ってみた。

 

が、出た結論は、

 

私だけを狙っているわけでもないだろう、

とそのまま突破することに。

 

でもやっぱり、

狙われていたのかも知れない。

 

さすがに二度も怖い思いをしたので、

腰の辺りがゾワゾワする。

 

ビクビクしていたのが余計に呼び寄せる

キッカケになったのかも知れない。

 

突然、ゴトン!と、

何かに乗り上げたような衝撃がした。

 

注意深く運転していたはずだ。

 

サイドミラーは見ていないが、

道に何も落ちてはいなかった。

 

でも、もし見落としていて、

人なんかを轢いていたとしたら・・・

 

そう思って確認することにした。

 

見たところで何もないという、

怖い予感はしていた。

 

でも万が一のことを考え、

 

意を決してこわごわ車から降り、

周囲を確認する。

 

やっぱり何もない。

 

あまり考え込まないようにして、

再び車を走らせた。

 

「車を走らせているうちは無事なんだ・・・

オバケなんかに捕まんないよ・・・」

 

そう自分に言い聞かせた。

 

私の心の中を読んだのだろうか。

 

敵は思わぬ攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

金縛り攻撃。

 

キューンと体の自由を奪われていく

あの感覚に襲われ、

 

もの凄く焦った。

 

「私、起きてるよな?な?

寝てんの?もしかして居眠り?」

 

車を止めようか迷っている時、

背後から嫌な気配がしてきた。

 

肩からハンドルを握っている腕に沿って、

白いモノが伸びてきた。

 

細い女の手だった。

 

(続く)車のサイドミラーに映る女の幽霊 2/2

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