奄美大島に伝わる「いまじょさん」という怪談
数年前の大学生の頃、同じゼミに奄美大島出身の加藤(仮名)という奴がいた。
ゼミ合宿の時に、その加藤と俺と何人かで酒を飲みながら怪談なんかを嗜んでいた。
それで、奄美大島には有名な『いまじょさん』という怪談があるのだが、俺は加藤にそのいまじょさんの話を振ってみた。
しかし加藤は、「なにそれ?そんな話聞いたことないよ?」という感じだった。
俺は、まあ別に地元の人間だからって必ずしも知っているわけじゃないかとか思って、俺が知ってるいまじょさんの話をその場でする事に。
いまじょさんの怨念
ちなみに、これがどういう話かと簡単に言うと・・・
昔、奄美大島の古仁屋町の金持ちの家で働くヤンチュ(下女のようなもの)に「いまじょ」という娘がいて、かなりの美人だったという。
その家の主人もいまじょの美しさに惹かれていて、ある日に無理やり手篭めにして、そのまま囲いものにしていた。
※手篭め(てごめ)
① 女性を暴力で犯すこと。強姦。 ② 人を力ずくで押さえ付けたりして自由を奪うこと。
そのことに嫉妬したその家の夫人は、ある日主人の留守中にいまじょさんを納屋に呼び出して、そのまま殺してしまった。
一方的に手篭めにされて、勝手に嫉妬で殺されたいまじょさんは怨霊となり、この男の家を祟り、程なくしてその家に連なるものは全員死に絶えたという、そういうお話。
それで、そのゼミ合宿の時に「旅行いきてぇなぁ」と話していたら、加藤が「奄美大島に来るんだったら家に泊めてやるよ」的な事を申し出てくれた。
そんなこともあって、その年の夏休みに俺と別の友達一人と一緒に奄美大島へ遊びに行くことにした。
タダで泊めてもらうのもなんなので、東京土産に地元の酒やらなんやら持って行ったら、かなり歓迎してもらえて、楽しい離島バカンスをエンジョイしていた。
そんなある晩、加藤の親父さんと俺らでお酒を飲んでいる時に、件のいまじょさんの話について訊いてみた。
話し相手の俺らがいるせいか、かなりお酒が進んで上機嫌になっている加藤の親父さんは快く話してくれた。
おおまかな内容は先に書いた通りなのだが、詳細はかなりキツイものだった。
その当時のヤンチュというのはかなり身分が低く、被差別的な扱いを受けていた。
いまじょさんは殺される時に子供を身ごもっていた。
夫人はいまじょさんを殺すまでに納屋に数日間幽閉して、男衆に輪姦させたり、色々な拷問を加えた末に、最後は性器に焼いた火箸を差し込んで殺した。
※輪姦(りんかん)
一人の人間を複数の人間が強姦すること。
また、いまじょさんはただ単に怨霊と化したわけではなく、いまじょさんの変わり果てた死体を引き取ったいまじょさんの家族が嘆き悲しみ、いまじょさんの死体とお腹の子供を埋葬せずに、その家に呪いをかけることに使った。
呪いが強すぎたせいか、その家の人間だけではなく、いまじょさんの一族まで死に絶えたという。
いまじょさんの話を嬉々として喋る親父さんの声に起こされたのか、親父さんの母親、つまり加藤の婆ちゃんが起きてきた。
そして、もの凄い剣幕で方言丸出しで親父さんを叱り始めた。
親父さんは昔東京に住んでいた出戻り組みで、俺らと話す時は標準語で話してくれたんだけど、婆ちゃんと婆ちゃんに怒られている時の親父さんは、方言がキツすぎて何を言ってるのか分からなかった。
でも聞き出したのは俺らだし、親父さんは泣きそうになっているしで、婆ちゃんにみんなで謝って、その日は解散して寝る事にした。
次の日、「俺らのせいで怒られちゃって本当にすみません」的な事を親父さんのところに言いに行ったら、年寄り連中はいまじょさんの呪いは今も信じていて、いまじょさんの話をするといまじょさんが現れて祟られると思っている、ということを聞いた。
親父さんが子供の頃は、何か変な事件とかがあるといまじょさんの仕業だとか、どこそこの誰かがいまじょさんに祟り殺されたとか、そういう話を聞いたこともあるらしい。
加藤がいまじょさんの話を知らなかったのは、話の内容がキツイのと、婆ちゃんに怒られるので教えなかったとの事だった。
(終)