山で見つけた養魚溜池の跡地と一軒の小屋 1/2
俺が小学校4年生の頃だったと思う。
うちは山陰のド田舎で、夏にはクワガタやカブト虫が取り放題な程だ。
俺たちは田舎のガキらしく、いつも山の中を駆けずり回って遊んでいた。
時代は昭和。
「子供が暗くなっても外で遊んでいたら人さらいが来るぞ!」なんて脅されたりしていた。
実際うちの田舎でも、近隣で子供の行方不明が起こったりしていた。
遅い時間に海岸へ行ったら絶対にさらわれると大人たちは言っていた。
しかし、俺たちは全くそんなことは気にしませんとばかりに、山だ海だ川だと毎日遅くまで遊び回っていた。
ある日、友達のタカがとんでもないネタを仕入れてきた。
早朝にクワガタを取りに山へ入った時、1時間は山道を歩いたらしいが、廃棄されたような『養魚溜池の跡地』みたいなものを見つけたと。
昔の池か沼かを利用した感じの粗末で小さい溜池らしいが、魚がウヨウヨいたぜ!と。
「よっしゃ!そこに行って釣りしようぜ!釣った魚はその場で焼いて食っちまおうぜ!」ということになり、とある土曜日の午後、釣り道具と100円ライターと塩コショウを持って、俺とタカとヨシマサの3人で集まった。
小屋の中で見てしまった恐ろしいもの
チャリンコで山の麓まで行き、藪の中にチャリンコを隠して山を登ること小一時間。
細く狭い獣道を掻き分けて、山の中腹にある少し開けた原っぱに出た。
「そっちを降りるんだよ」とタカが指差した方は、一見藪か崖か分からない茂み。
「おめーこんなとこ一人で降りたん?」
「いや、兄ちゃんと来た」
「マジすげーよ、おめーら兄弟(笑)」
なんて言い合いながら、まさに視界もないほど覆われた藪の中を、それでも僅かに踏みならされた足元を頼りに掻き分けながら歩いた。
藪に埋もれた斜面を降りた先は少し開けた。
それでも高い樹木に囲まれた広場。
ただでさえ曇天だったのが、日の光は樹木に遮られ、まだ昼2時というのに薄暗い。
文字通り、鬱蒼という感じ。
そこに池があって、池の辺にはこれまたお似合いの『小さなボロ小屋』が建っていた。
直径15メートル程の池には、方々が腐って千切れているネットが掛けてあり、ネットの上には枯れ草が掛けられてあった。
少しネットをずらして下を見ると、30センチクラスの魚影がウヨウヨと動いている。
俺はそれよりもボロ小屋が気になり、「なんか家あるよ?誰かいんじゃねぇの?」と訊くと、タカは「いや、この前は誰もいなかったよ。兄ちゃんが中に入って見てきたけど廃墟だって言ってた」と。
「マジかよ、大丈夫かな~?」なんて言いながら、釣りの準備を始めた。
竿を伸ばして仕掛けを作り、ミミズをエサに付けて順番に糸を垂れる。
入れ食いだって思っていたら、全く食い付いてこない。
「おかしいな~。エサがダメなんかな?」
「魚デカいのがいっぱい見えるけどね」
そうして2時間近くは糸を垂らしていた。
でも全く釣れない。
そのうちガキの俺たちは飽きてきた。
すると、それに合わせるように天気も崩れてきた。
「暗くなったね。雨降りそうじゃね?」
「帰る?どうする?」
「帰ろうか?」
「魚焼いて食おうって思ってたのに~」
なんて話していたら、急にザーッと夕立が。
急いで釣竿を畳んで小屋の方へ駆け出した。
雨が強さを増していく中、小屋の軒下で雨が弱まるのをじっと待つ。
すると、ヨシマサが汚いガラスから中を覗きながら、「ねえ、なんか面白いもんないかな?」と言い出した。
「この前、兄ちゃんが入って見た時は何もないって言ってたよ」とタカ。
そして「入ってみねぇ?」という話になり、でも鍵が掛かっているらしく、玄関が開かないからタカの兄貴が入ったのと同じように、3人で窓によじ登って小屋の中に入った。
小屋の中は6畳一間。
畳は腐っていて、床も抜け落ちそうな荒れ具合。
それに、凄く生臭い。
生ゴミみたいな臭いが充満していた。
家具と呼べるほどのものは何もなく、生活感というものがない。
あるのは万年床と観音開きの戸棚、小さなちゃぶ台くらい。
部屋の隅に変な薬瓶、おそらく農薬の類を入れるような茶色のガラス瓶が散乱していたのを覚えている。
「人が住んでそうじゃないね」
「まあ無人だからそうだよね」
人の気配はまるでない。
そうこうしているうちに雨が強みを増してきた。
外へ出れそうな雰囲気ではない。
「なあ、ここを綺麗にして俺たちの秘密基地にしねぇ?」
ヨシマサが言い出した。
「いいねぇ」と俺は同意。
タカが「よっしゃ、やろう!」と言って、3人でゴミを蹴って集めだした。