カーブを抜けた先で轢いてしまったもの
もう10年ぐらい前のこと。
仕事が終わって帰路に着いていた。
時間は22時前後。
途中で高速の高架下を通るのだが、そこは少し変わった造りで、低い天井と緩いカーブの見通しの悪いトンネルになっている。
眠かったからスピードは出していなかったはずだ。
カーブを抜けたすぐ、『ソレ』は地面に転がっていたから、ブレーキが間に合わなくて轢いてしまった。
時々同じようなことが起こっていた
ソレは、人間をすっぽり包んだ形状の毛布。
毛布の周囲には厳重に巻かれたロープ。
おそらく、左が頭で右が足のようだった。
左のタイヤがモロに乗った感触があった。
「頭を潰した・・・」と瞬間的に思った。
ゆっくり乗り上げたから、形まではっきりと感じてしまって・・・。
すぐに止まったが、ビビって車から降りられなかった。
「あれ・・・人間?本当に人間?」と何回も自問した。
少しだけ前に進んでバックミラー越しに確認すると、そのままの形で転がっている。
5分ぐらい、そのままだったと思う。
救命措置をしないと・・・と、覚悟を決めて車から出ようとした時、全身が総毛だった。
「出たらヤバイ!」と本能的に警戒した。
そして、その場から逃げて交番に直行した。
半泣きになりながら駐在さんに説明すると、「パトカーに乗って同行してください」とのこと。
どういう心理だったのか、現場に着くまで駐在さんに謝り続けていた。
ところが、現場には何もない。
血の跡もない。
サイレンを鳴らしてきたのですぐに野次馬で一杯になったが、怪しげな騒ぎも全くなかったという話。
何がなんだかわからなくて混乱していると、駐在さんがまたパトカーに乗せて交番まで戻ってくれた。
私は知らなかったが、市内では時々同じようなことが起こっていたそうだ。
人通りのない田舎道に人間っぽいものを置いておいて、轢いた車の所有者が慌てて車から飛び出したところを強盗するという犯罪が多発していた。
被害額が少なかったので、新聞の地方版にしか載っていなかった。
でも、なんだか不思議だった。
私はなぜ車から降りられなかったのだろう・・・。
そんな犯罪のために轢かれ続けた人形が、何かの信号を発してくれたのかも知れない。
(終)