死んだばかりの人の苦しむ声が聞こえた!?
僕の従兄弟の和也(仮名)は、地元でユタと呼ばれるシャーマン(民間霊媒師)の修行や勉強をしている。
和也は僕と一緒に介護施設で働いているが、よく一点を見つめては、「あそこに霊がいる」、「土地の神様が怒ってる」などと言ってくる。
正直、全然信じていない僕はいつも、「また始まったよ・・・」と思いながらも軽く受け流していた。
そんなある日、14時30分頃に出勤してフロアで利用者を見渡すと、うちでも一番高齢の女性利用者のTさんが、車椅子に腰掛けたまま眠っていた。
だが、顔が黄色っぽくなっていて明らかにいつもとは違う様子だったので、呼びかけてみたが反応は無かった。
すぐにバイタルを確認すると、呼吸、脈ともに無かったので、同僚に救急車を呼んでもらい、僕はTさんを寝かせ心臓マッサージを行った。
間もなく救急車が到着し、Tさんは救急隊員によって病院に運ばれていった。
こういった経験がなかった僕や同僚はほとんどパニックで、適切な対応が出来ていたかどうか不安だったが、ただただTさんの無事を祈るばかりだった。
しかしその後、病院からTさんが亡くなったとの連絡が入った。
ショックではあったが、とても高齢だったし、しょうがないのかなと思っていた。
その後に和也が出勤してきたので今までの状況を説明すると、「そっかぁ、大変だったね」と励ましてくれた。
業務に戻ったが、あんなことがあった後なのであまり仕事が手に付かなかったのを覚えている。
しばらくして休憩に入り、和也と二人っきりになったのだが、彼が妙な事を言い始めた。
「Tさんが苦しんでいる」
またいつものあれが始まったと思った僕は、「そんなこと言わないでよ~」と適当に返事を返していた。
しかし和也は、いつにもなく真剣な表情でこう続けた。
「これは自然死じゃないな。たぶん窒息死。喉に何か詰まってるかも」
施設ではお昼ご飯は12時から13時くらいまでで、おやつは15時から。
僕がTさんの異変に気付いたのは14時30分頃。
お昼ご飯からは大分時間が経っていたし、その10分くらい前までは意識もあったと同僚も話していたので、誤嚥(ごえん)による窒息の可能性は疑っていなかった。
しかし和也は、「間違いない。苦しんでる声が聞こえる」と断言している。
僕はとても信じられず、「まさか~」と言いながら流していたが、和也は「本当だよ」と言い残して仕事に戻っていった。
その2時間後、警察から連絡があった。
「Tさんの肺や器官から食物残渣が出た。窒息死の可能性があるので事情聴取を行いたい」
正直、鳥肌が立った。
現場におらず、状況を僕から聞いただけの和也が、なぜ詳しい死因まで分かったのか。
今思い出しても不思議でならない。
和也には本当にTさんの声が聞こえたのだろうか。
(終)