葬儀屋さんから届いた遺影写真の原稿
私が勤めている会社は、コンピューター関係で色々とやっているのですが、業務の一環で『葬儀用の遺影写真』も作成しています。
取引先の葬儀屋さんから届くメールなどから原稿写真を取り込んで、遺影写真として仕上げるのです。
これは、もう3年程前の話。
いつものように取引先の葬儀屋さんから、「今メールで送った写真お願い。ちょっと凄い写真なんだけど・・・」と妙に歯切れの悪い感じで連絡がありました。
嫌な予感がしましたが、それも毎度の事なので、もしかして戦前の古い写真とかかなぁ~くらいに思いました。
やっぱり無理だよね
その時はちょうどお昼前で、他のスタッフは部屋を出ており、製作ルームには私一人でした。
私はメールを確認して、添付されていた写真のデーターを開きました。
次の瞬間、「ギャー!!」でした・・・。
我ながら意味不明の悲鳴を上げて、お隣の社長室へ逃げ込みました。
ここ10年くらい、あんな悲鳴を上げた事はないでしょう。
私の悲鳴を聞きつけて、すぐさま社長は部屋から出てきました。
私は社長にしがみ付きました。
もう、セクハラも何もあったもんじゃありません。(この時点でボロボロと泣いていたと思います。怖くて)
とにかく私は、「今届いたデータを見て下さい!!」とお願いして、社長を製作ルームへ放り込みました。
写真を見た社長は「うっ・・・」と小声で言った後、涙目で部屋から出てきました。
とてもじゃないけれど、あの写真は1秒と見ていられないし、ましてや遺影として加工出来るものではありませんでした。
ホラー映画に出てくるゾンビなんて可愛いものです。
仮に、あの写真は実はスプラッタ用の特殊マスクなんだよ~、と言われたら信じられるかもしれません。
テレビではきっと、放送コードに触れて放映出来ないでしょう。(故人様には誠に申し訳ない限りです・・・)
結局、取引先には事情を説明して、社長がお断りいたしました。
取引先からも、「やっぱり無理だよね~。自分も撮影する時、背筋が寒かったもの・・・」と。
そう、送られてきた写真は生前のものではありませんでした。
通常の遺影は、生前撮られたスナップや肖像写真から作りますが、これは死後に撮影したものでした。
それも、俗に言う『孤独死』というもので、死後1週間経っても発見されなかったとか。
遺族の希望で、デスマスクから生前の顔を復元出来ないか、との依頼だった様です。(生前の写真が見つからないとのことで)
警察が行う複顔の様な凄いテクニックがあれば出来るのでしょうが、一民間企業には無理です。
ましてや、1枚のポラロイドからなど。
会社のスタッフ皆がその送られてきた写真を見ましたが、誰も3秒と見れませんでした。
余談になりますが、うちの会社は業務時間が長い為に2交代制で、また17時~21時まではスタッフ1人で待機するのですが、このデータが来てから(勿論、データーは翌日消去させて頂きましたが)2週間程は、男性ですら「1人待機は勘弁してください」との事で、2~3人で終業時まで待機していました。
大袈裟ですが、写真を見た者にしか分からない恐怖だと思います。
もう3年も前の話ですが、故人様のご冥福を切にお祈りします。
また、ご葬儀関係会社の方々、ご遺族の皆様にくれぐれも、「ご遺影用のお写真は『生前』撮影されたものをご用意下さい」とお伝え下さい。
今でも社内では、何かあると「そう言えば、あの写真さぁ~」と、ふっと話題に上るインパクトのある写真でした。
(終)