いわくつきの人形が盗まれたが1ヵ月後に
我が家には『いわくつきの人形』がある。
ばあさま曰く、明治時代に夭折された若様を模して作られた由緒あるもので、その若様が人形に入っていらっしゃるそうだ。
※夭折(ようせつ)
年が若くて死ぬこと。若死に。
ある日、その人形が盗まれた。
泥棒というか、まあ何というか、母の知り合いの藤田さんにだ。(名前は仮名)
若様じゃなかったの?
しかし1ヵ月後、その人形は無事に帰ってきた。
返しに来た藤田さんは憔悴しきっており、手足には包帯を巻いていた。
聞けば、ドリフのような落し物(棚の上から物が落ちて頭にスコーンと当たる)が続き、ついには枕元に白い狐様が立ち、「かえせーかえせー」と手首や足首をベチベチと叩いたそうな。
叩かれた後はくっきりと跡が残っていた。
それも肉球型に。
それを聞いた我が家では、「あれ?人形に憑いていたのって若様じゃなかったの?狐なの?えっ?」と軽く混乱しつつも、警察に通報した。
その後、藤田さんはさらに余罪がぽろぽろと出てきて、結局は逮捕された。
ちなみに、藤田さんの手首や足首に肉球型の痣があるのは俺も見せてもらった。
「こんな変な事になった!」と言いながら藤田さんに。
それ以来、人形へのお供え物のラインナップに変化があった。
これまでは、あんこたっぷりのお団子、ミルフィーユ、プリン、ロールケーキ、イチゴ大福、ぶどうのゼリーだったが、新たに油揚げ、いなり寿司、厚揚げが追加された。
もちろん一度に全部を供えるわけではなく、母が何となく「今日はこれかな」と思ったものをお供えしている。
また、若様の人形の服を女性が着替えさせると何故かその日のうちに小さな怪我をするので、新調して着替えさせる係は俺なのだ。
(終)