山女に魅入られた中年男性の話

森林

 

これは、親戚の神社でお祓いの手伝いをした時の話。

 

確か夏の頃だったと思う。

 

一人の中年男性が社務所を訪ねて来た。

 

その男性が言うには、『どこかの山に登って以来、女性が付きまとう』という事だった。

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うわっ、出た!

うちの地方は県内でも変わっていて、未だに妖怪や山の化生などの話が多い。

 

神主をしている叔父曰く、「山女に魅入られたんかもしれん」との事だった。

 

確かに、その男性は憑かれた経緯を話している間も目が山の方を見ていて、上の空で話しているような、なんとも気味が悪かった。

 

そして、「とにかくお祓いを」という事になった。

 

神前に榊とお神酒、お供え物をし、その前に男性に座ってもらった。

 

神主である叔父が御幣をささげてから祝詞を唱える。

 

※御幣(ごへい)

神道の祭祀で用いられる幣帛の一種で、2本の紙垂を竹または木の幣串に挟んだものである。(Wikipediaより)

 

※祝詞(のりと)

神道の祭祀において神に対して唱える言葉で、文体・措辞・書式などに固有の特徴を持つ。(Wikipediaより)

 

その間、俺は男性の斜め後ろで待機し、何かしらの指示が出るのを待つ。

 

男性は頭を少し下げ、神妙に祝詞を聞いているように見えた。

 

しかし、しばらく後、頭が激しく振れ始め、うめき声を上げて苦しそうだ。

 

「おい!抑えろ!」。

 

叔父に言われ、男性を押さえ込む。

 

そうすると、物凄い力で暴れだした。

 

どうにかこうにか押さえ込んでいると、叔父が御幣を神棚から取り、男性の背中に当ててサッと祓う。

 

そうすると背中の真ん中辺りから、長い、本当に長い黒髪の束がバサッと翻(ひるがえ)った。

 

俺は思わず、「うわっ、出た!」と声を出す。

 

その背中から出た髪の長さは1メートル以上はあったと思う。

 

髪は男性の背中から生えているのに、まるで頭が付いていて暴れているかようにバッサバッサと動いていた。

 

「おい!髪を引っ張れ!」。

 

叔父が怒鳴る。

 

腰が引けていたが、両手で髪を掴んで思いっきり引っ張った。

 

大根を引き抜くような感じで引っ張ると、急にスッと抜けた。

 

勢い余ってひっくり返るが、すぐに起き上がって両手を見ると、一束の黒髪があった。

 

「こっちに渡せ」。

 

叔父に言われ渡すと、叔父は懐紙に包み、神前に置いた。

 

「あとで焼いて清めんとな。女の髪は念がこもる」と。

 

男性は気絶していた。

 

男性に清め塩をかけ、御幣で祓うと起き上がった。

 

そして「体が軽くなりました」と言う男性に、叔父は言った。

 

「山女に魅入られたのですね。今度からは心を清めて入山してください。あのままだと、貴方は山に魅入られて帰って来れなかったかもしれない」と。

 

男性に髪の束を見せると、腰を抜かしていた。

 

その男性は礼を言うと、何度も頭を下げながら帰っていった。

 

その後、叔父と俺は境内に小さな櫓(やぐら)を組み、清め塩とお神酒をかけて髪を燃やした。

 

普通の髪は燃えると嫌なニオイがするが、その髪は植物と土のニオイがした。

 

(終)

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